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赤マントになれたらと

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赤マントになれたらと


 雨の中、少女が嗤う。
 きっとこのまま放っておけば、この少女は永遠に彷徨い続けるだろう。
 しかし、私にはこの少女を助けられるほどに余裕はない。それは人の身に余る行為だ。生きている人間が、死んだ人間を助けるなんて行為は、人の業ではない。
 だから、私は見ないふりをした。それは、私の仕事ではない。
 雨の中、少女は嗤う。

「「「我ら幼児性愛者同盟は、永久に不めふぶぁっ!」」」
「また不潔なモノを蹴り飛ばしてしまった」
 赤いマントの男と袋を担いだ女と遊園地の着ぐるみを蹴り飛ばして、私は呟く。いや、うん。ホント不潔な話だ。
 目の前には怪人赤マント、雨女、そして遊園地の着ぐるみが勢ぞろいしている。
 雨の日の夜、夜食の買い出しに外へと出た私に襲いかかった三つの影。それは妖怪雨女、怪人赤マント、そして遊園地の着ぐるみだったのだっ!
 ……凄い字面である。
「いや、でもですねぇ、私たちそーいう都市伝説ですし」
「君、都市伝説だからってなんでも許される訳じゃないんだよ……」
 子供を背負っている袋に詰めて連れ去るという妖怪、雨女は言う。その正体は産んだばかりの子供が雨の日に神隠しにあった母親が妖怪化したものだという。
 雨女の場合はマントや着ぐるみと性質が違うだけにちょっと扱い辛い。いや、着ぐるみほどじゃないのだけど。
「何を失礼なっ! 我々はね、子供たちに『夜になったら危ない人が出るから暗くなる前に帰るように』、という説教的側面もありましてねっ!」
「ええぃっ、暑苦しいっ! 触るな寄るな変態っ!」
 こっちは怪人赤マント。怪人が子供を連れ去り殺すという正統派誘拐系都市伝説であり、元ネタは『青ゲットの男』と呼ばれる事件と『二・二六事件』だとされる。
「コドモは高ク売レルカラネェっ!」
「おめぇは色々と危ないからもう喋るなよ」
 この色んな意味で危ない着ぐるみは、多分恐怖の着ぐるみと遊園地誘拐事件が混ざっている。怖ろしい表情の着ぐるみと出会ったら最後、連れて行かれてしまうという都市伝説と、遊園地内で子供が臓器売買目的に誘拐されそうになるが、トイレで見つかり表ざたにならなかった、という辺りだろうか。あまりに危ないので細かい描写は勘弁していただきたいところだ。
「あんたら、とりあえずそこに座れ。胡坐じゃない正座だ」
 歩行者専用の道路標識の下、彼ら『誘拐系都市伝説』と『誘拐系妖怪』を座らせる。
「さて、ではまず。私のもとに現れた理由をご説明願いましょうか?」
「それはもう、貴女がそれはもう立派な童が――」
「ハイ失礼ぃっ!」
 げしげし。
「そうですよ。こんな子供いる訳ないじゃないですか」
「デモ、キミみたいなコ、スナッフビデオにスルとウレそうダヨネっ!」
「おめぇは冗談抜きで物騒なんだよっ! というか喋るな、つってんだろっ!」
 この着ぐるみには早々に退場いただきたいところだ。
「というかですね、あんたらの出番は終わってんの。着ぐるみ、あんたもだ。何正座崩そうとしてんだよ」
 どいつもこいつも対抗神話に木っ端微塵にされたりやお役を人間に奪われた奴らばかりである。
「だからこそっ! 我々誘拐系都市伝説の復活が必要なのだと」
「止めろお前らが復活すると人攫いの良い隠れ蓑になるから」
 こいつらの復活だけは阻止するべきだろう。
「最近口裂け女さんがまた活動を始めたじゃないですか。だからですね、私たちも活動をしなくちゃと思いまして」
「いや知ったこっちゃないよ」
「満面の笑みで子供を追い回す口裂け女にジェラシー」
 トラウマどころの話じゃないだろう。
 最近復活した口裂け女の都市伝説に触発され、こいつらもモチベを上げてしまったようだ。どいつもこいつも迷惑な……。
「できればねぇ、私、あんたたちみたいなのには会いたくなかったのよ。ガチでシャレにもコメディにもならないから」
「ダヨネっ! タダでさえコーイウネタは世間の風当たりが悪いカラネっ!」
「分かってんなら喋んなアホんだらぁっ!」
 こいつだけは、こいつにだけは口を開かせてはならない。私は本能でそれを察知し、遂には着ぐるみの口に石を詰め始める。
「でも、やっぱり子供は可愛いモノですよ。性悪説的に見ても性善説的に見ても」
「それぜんっぜん誉めてるように聞こえないんですけど」
「うむ。父性本能が刺激されて……はぁ、はぁ」
「おめーのそれは本当に父性本能かよ」
 それは父性本能ですか? はい、性本能です。
「しかしまあ、会いたくなくても君はいずれ私たちに会うことになっていただろう。――いや、正しくは、『起こるべくしてこの事態は起こった』というべきかね?」
「――? どういうことだよ」
「それは、貴女がこれまで積み上げてきたモノに関連している訳です」
「そうだよ、君が見ないふりをしてきたモノのお話サっ!」
 目眩がした。

 彼らに与えられたのは、人間の罪の証であった。
 怪人赤マントにせよ、雨女にせよ、人が人を攫うことに対する罪を彼らは被った訳だ。
 昔はこのように妖怪や怪談が人間の罪を被ることがあった。しかし、今では人が人の罪を被る時代だ。罪の所在が明文される時代なのである。だが、それはあくまで『人以外のモノ』が人の罪を『代わり』に被ることがなくなったことに過ぎない。
 本質は何も変わっていない。ニュースを見た時に、私はふと気付いた。
『――怖い世の中になったもんだ』
 他人事である。
 そう、他人事のように、遠い世界の出来事のように感じている自分に気付いたのだ。
 人の所業を妖怪や都市伝説の仕業にして自分らの世界から切り離す行為と、その事実を事実のまま受け止めて同じようにテレビや新聞、ネットニュースの世界として切り離す行為に、どのような差異があるだろうか?
 ――本質は何も変わっていない。
 気付いた時、私はゾッとしたのだ。あらゆる罪を切り離し、別世界に置くその行為に、私は悪寒が止まらなくなった。
 罪はすぐ隣にいる。決して別世界の出来事ではない。
 そして罪は罰せられる。ただし、罰はいつも正しい罪の元に降りてくるかというと、そうでもない。そのことが、私は堪らなく怖い。
「そうだヨ、君の罪だヨ」
「君には他の人間には見えないモノが見える」
「だけど、君は自らが助けられるものの手を振り払って、見ないふりをしたのよ」
 ――あの亡者のように。
 ぐるぐると視界が回る。ぽつぽつと雨が降って来る。
「君は助けられた筈だ、あの子を」
「君は手を差し伸べることできた、あの子へ」
「君は救う力がアッタ、あの子を」
 罪が私の元へ降りてくる。
「「「だけど、君はしなかった」」」
「違う、違う違う違う違うっ!」
 私にはできなかった。できる筈がなかった。
「人には救える人間に限りがあるから?」
「ホラ、また言い訳をしてイル」
「本当はそんなモノなど無いことに、君は気付いている筈だ」
「私は人間だっ! スーパーマンなんかじゃないんだよっ! そんな義務、私には身に余る……っ!」
 英雄でも何でもない。人の身に余る正義を抱えて歩けるほどに、私は強くない。
 闇の中に、彼らは紛れる。
 ――でも君は、今でも悔いてるネ?
作品名:赤マントになれたらと 作家名:最中の中