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秋月かのん
秋月かのん
novelistID. 50298
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第1章  3話  『サイセイ』

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むせ返る嘔吐感、体内の組織が全て押し潰されたみたいだ。

ナンダコレハ。コンナガキニコノザマカ。
ソンナハズネェ。オレハマダ……ダメダ、イシキガ……トオノイテイク…。

そのまま意識を失ってしまった。

どれくらい経ったのだろうか。
再び意識が戻った時には、俺は何故か結界が張られていた公園の中にいて、そこにミナと同じくらい小さな女の子がこちらを向いて不気味に微笑んでいた。

なんだ、俺。
あれからどうなったんだ。どうして、ここにいるんだ。
あの結界をどうやって突破したんだ。ワケガワカラナイ。

というか、まどかちゃん!!彼女は無事なのか!?

俺の不安をよそに、少女が口を開く。

「やはりな。まだ力を制御できないのだな。だが『鍵』の力はこれほど強大なものなのか。魔力の暴走、オーバードライブ、意識の混濁。あいつが残した力はホンモノだな。改めて感心するよ。この力を制御したお前は強かったのだろうとな」

小さな少女は、誰に向かって語っているのかわからないが、歳相応に愛らしい顔で嬉しそうに微笑んでいた。だが、それもすぐに消え、俺に視線を向けると不敵に笑みを浮かべる。

「フフ、その様子じゃどのようにその力を引き出したのかもわからぬだろう??」

「何のことだ??」

状況の説明を願うべくミナに視線を向けると、ミナの衣服が鋭い何かで切り裂かれたように所々破け、そこから肌を覗かせているが傷だらけで血が滲んでいた。

「おい、ミナに何をした??」

状況から察すると、この少女がとても友好的でないことは明らか。ミナと対峙し、嘲笑うかのように見下している事から、ミナに傷を負わせたのはこの少女だ。

それなら、俺がやることは決まっている。

「ん??貴様、何のつもりだ??」

「決まっている。これ以上ミナを傷つけるようなら俺が許さない!!それと、ミナをこんなにまでさせちまって救えなかった俺も許せねぇッ!!」

「フフ、アハハハハハ!!今の無力な貴様が私に立ち向かうか??フフフ、今の貴様なんぞアリを踏み潰すよりも簡単に殺せるぞ♪♪」

「へ、言うねぇ。んじゃ、やってみろよ??今言ったことを後悔させてやるくれぇには奮戦してやるからよ、お嬢ちゃん」

「アーッハハハハハ♪♪やはり、貴様は興味深い♪♪楽しませてくれるな♪♪」

お腹を抱え、心底嬉しそうに高笑いする少女。
今の俺じゃ、何が出来るかわからない。勝ち目もないのかもしれないが、それでも目の前に守れるモノがあれば俺は守ってみせる。

そう覚悟を決め、身構えていたのだが少女は敵意を見せずに身を翻す。

「まぁいい。私は今日のトコはこれで退散する。これでも私は暇ではないんでな。アハハ♪じゃあな、小僧♪♪」

そう言うと謎の少女は、スタスタと帰ろうとする。
って、ちょっと待て待てッ!!

「おい、ちょっと待て!!何故、何もせず俺達を見逃すんだ??一体、どういうつもりだ!?お前は何を企んでるんだ?ってか何者だッ!?」

「フフフ、この私に有無言わさず質問攻めとはいい度胸だ。だが答える義理もない。貴様には関係ないことだからな。それに、私は気が変わったんでな。だから私は今日はこれで帰る。それだけだ、わかったか?小僧。ふふふ♪」

こ…小僧って。
そんな、なりしたお前になんか言われたくはないぜ。

「それじゃあな。またな小僧。ふふふ♪」

謎の少女は何だか満足したのか嬉しそうに微笑んで、そして、光に包まれていったかと思うと一瞬でいなくなってしまった。

まるで瞬間移動だな。
…って、そんなことはどうでもいいか。

俺は、ふらふらで今にもぶっ倒れそうだったミナに駆け寄った。

「ミナ、大丈夫か?って傷だらけじゃねーか!大丈夫かよ!?」

「うっ…うっ…うっ」

ミナは傷が痛むのか目からぽろぽろと涙を流していた。

「大丈夫か?傷が痛むのか?待ってろあとですぐに手当てしてやるからな」

「うっ…うっ…、ち…ちがっ…うっ…ちがうよ…うっ…」

「違うって、それじゃどう……」

と言葉を続ける間もなく、俺はミナに抱きつかれていた。

「うわぁぁぁぁん!ヒナちゃーん!うえぇぇぇぇん!」

ミナはさっきまで張り詰めた糸がゆるんだのか堰を切って泣き出した。
俺の胸に顔を埋めてミナは涙声で、

「怖かった…怖かったよ…。すごく怖かったよ。うぅう…うっ…うっ」

「そうか。でも、もう大丈夫だ。今は俺がいるから大丈夫だ。安心しろ」

「うん…うん!うっ…うぅ…ぐすっ」

ミナは、大粒の涙を流しながら、その涙を拭おうと目をこしこしと手で擦っていた。
だから、そんなミナに俺はこう言ってやった。

「ミナ……よく一人で頑張ったな」

俺は、いつものように…いや、いつもとちょっとだけやさしく頭を撫でてやる。

「うわぁぁぁぁん!」

こうして、ひとまずミナの無事を確認し、まどかちゃんをさらい、目的が闇の中な謎の少女との戦いが終わり、俺はほっと胸を撫で下ろし、安堵する。

そして、俺とミナだけが残された公園は、ミナの泣き声が大きく響き渡るのだった。





「そうだったのか。ミナは魔法使いだったのか」

「はい。今まで隠していてすみませんでした」

ミナは、ペコリとお辞儀して苦笑いで微笑んでいた。
俺たちは今は人通りもそうないチカチカと寂しく光る電灯の下の薄暗い住宅街をテクテクと歩いていた。

しかし、ミナが魔法使いだったとは驚いたぜ。
…ってちょっと待て。
何気なくサラリとそんなこと言っちまったがいいのか、それでこれじゃ、さっきの非現実的な光景を俺自身、認めたことになるんじゃないのか。

確かに起きた。今、さっきそれは起きちまった。
俺は愕然とした。

よく考えたら俺はとんでもないことに関わっちまったんじゃないだろうか??
まどかちゃん誘拐事件、異質な空間、挙句の果てには意識を失い、気が付くと公園が崩壊されており、謎の少女の登場にミナの魔法使い宣言まできやがった。そして、この俺にも何だかわからん力が秘められていたのなんだのと。

あの時は必死で冷静さを欠いていたが、今、改めて冷静に落ち着いて振り返ってみると、さっきの出来事は俺にマジに危険だってことを実感させてくれたような気がしてきた。

だってよ、信じられるか??

さっきのあの光景を目の前にして、しかも、成り行きで俺はその出来事の関係者にして当事者にもなりかねん。
今でも鮮明の覚えている。

あの異質な空間をいつの間にか意識がないときに乗り越えて、目を覚ましたかと思えば公園に乗り込んでるし、そこにはボロボロのミナと謎のちびっこ少女とにらみ合う状況、なんだかよーわからんが、それで俺は何とか助かった。

もしも、あの時、少女に敵意があれば、確実にあの少女に殺されていただろう。
それらは全てマジに俺の身に降り注いだことで、夢でもない事実なのだ。
これだけのことがありながらも俺はまだあれは何かの夢か幻覚だって思っている。

いや、思いたい。そうであって欲しいと願っている。

でも、、どこまでいってもそれは叶わない。だって、事実なのだから……。
さて、俺はどうしたもんだろうか??
何を信じればいい??どうすればいいんだ??