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秋月かのん
秋月かのん
novelistID. 50298
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第1章  2話  『壊レユク現実』

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俺がいたあの距離からまどかちゃんの声がした方角まで……いや、それ以上だ、ずっと俺はここまで走ってきたが、まどかちゃん姿あらずでこれしか見つからなかった。ありえない。

それにおかしい。かれこれ十分なくらいに走り続けている。
肺が苦しい。焼けるように喉から肺までが暑い。
身体が酸素を求めてやまない。

道を引き返し、さらに奥へ駆けて、いつの間にかこうやってまた戻ってきてしまっていた。俺は昔からこの街を知っている。ここいら近所の道も十分くらいに知り尽くしている。

のら猫の散歩道から秘密の抜け道まで何から何まで知り尽くしている。
いわば、俺の庭みたいなもんだ。だから言える、この状況はおかしい。
ここには入り込んだ道なんてない。見通しのいい1本道だ。

ここより他には道はない。だから見つからないってこと……ないんだよ。
俺は振り返る。だが、そこには誰もいない。
そこには恐ろしい程に静まり返り、俺以外、人一人いない道路と住宅街があるだけだ。

嘘だろ??

俺は手に持っていたまどかちゃんのバッグをきゅっと握り締めていた。
いくらなんでも、そんなに遠くに行ってないはずだ。声だってしたんだ。
まどかちゃんの叫ぶ声が聞こえたんだ。間違えねぇ……俺が間違えるわけねぇよ。

これはまどかちゃんの声だ。確かにここにまどかちゃんがいたはずなんだ。
それなのに、俺が向かうその一瞬の間に消えちまった。
まるで、風のようにフッと…。

どういうことだよ!?何があったっていうんだよ!?
それとも何か悪い事件にでも巻き込まれちまったのか?!しかも、この一瞬で??

もうまったくわけがわからない。
俺の頭は激しく混乱していた。

目の前で起きたことが何なのか、目に映る光景が信じられず、俺はどうしたらいいのかわからない……まさに為すすべもない状況なのだから。それにさっき感じたあの妙な感じ…。どこか焦燥感を覚えさせるような嫌な予感は…。

その予感はだんだんと俺の中で確信に変わっていくことになる。

「……ここは、どこだ??」

さっきから走り続けているが、この1本道にまるで見知った感じがしないのだ。
どこか異質だ。さっきは一瞬の事で思考が追いつかなかったが冷静になって気付いてみればどうということもない。

夜遅くとはいえ俺が家を出たのはせいぜい7時過ぎ。
寝るにはまだ早い時間帯である。なのにココには住宅街に光はなかった。
気付いてしまえば何ということもないが、それが確信へと変わってしまえば途端に恐怖へと変わる。背筋が思わずブルっちまうくらいのな。

街頭の光もチカチカと今にも消えそうな状態、いかにも何か出ますよって雰囲気だ。
月が出ていてもこれでは暗いわけである。
ここであって、ココではないどこかへ踏み入れてしまったような感覚。

暗闇が俺を弄ぶかのような、闇が俺を迷わせるかのような、全く別の世界、全く知らない路地が広がっていくかのように思えてくる。それでも、俺は息急き切って夜道を駆けていく。今来た道は異質にも何もない闇だけが広がり、文字通り何もない。

あるのは背筋も凍りつくような嫌な感覚だけ。
それは絶えず続いている。いや、気付いてしまった瞬間に始まったに違いない。

……何だろう。ワケも状況も呑み込めないが何か胸騒ぎがしてきやがった。
俺は前にどっかでこれと似たものを感じたような気がする。
全速力で走りながら、慎重に大事に俺の中の記憶を探っていく。

いや…、気がするんじゃない。
たぶん知っているんだ。でも、ダメだ思い出せない。

「くそッ!!何で思い出せないッ!!!今はこれだけが頼りなのにッ!!!!」

どこだッ!どこに行ったんだ、まどかちゃん…。
こうしている間にも…くそッ!!

俺は思い出せないことが悔しくて、バリバリと頭を掻き毟る。
それどころか、嫌な予感だけがだんだんと近づいて大きくなっていく。

…くそッ!!…くそ!!…くそおッ!!!

俺はガンガンと電柱を両手握りこぶしを叩きつける。
しかし、こんなことをしたってどうにもなることはないと俺は気付き、そして、電柱を叩いた痛みのおかげで、熱く滾っていた脳に再び冷静さを取り戻すのだった。

「くぅ…。こうしてる場合じゃないな。取り敢えず今、俺に出来ることはまどかちゃんを探す、それしかない」

俺は来た道のその反対の道を探してみようと、引き返し駆け出そうとする。
その時だった。

「な…何だ!?」

俺は一瞬自分の目を疑った。なぜなら…。
今俺がいるこの場所から見て北の方角……北だよな、まぁ今はそんなことはどうでもいい。

取り敢えずその方角に、薄っすらと明るく光り輝いている透明?な極めて異質な空間がドーム状にその場所だけを全体覆っていた。それはまるでそこら一帯誰も寄せ付けないようするかのように…。

<<……けて…くだ…さ…>>

「………………ッ!!」

その異質な空間を見つめていたら、突然、声が聞こえたかと思うと、頭に激痛が走った。

な…なんだ。急に……頭が……くッ…!!

俺はあまりの激痛でその場に両手を頭に抱えて塞ぎ込んでしまう。

く…くそ…どう…なっちまった…んだ。…こ…んな…ときに……くッ…!!

痛いってもんじゃない。頭が割れるような今にも破裂してしまうくらいだった。

「がぁあああああぁぁぁああああッッ!!」

俺はこの激痛に我慢できず、声に出して唸り、そして叫んだ。

くそ…ッ…。今…こんな…くぅッ…ところで…つぅッ…わけには…いかないんだ…。

俺は白い光に包み込まれていった。
そして、薄っすらと目を開けると、ぼやけてはいたが何かが目の前に立っていた。
いたかどうか、それが幻影なのかどうかは不明だ。ただ分かるのは得体の知れない何かが、影のような異質なモノが目の前を覆っていたということだ。

<<ご……さまを……た……けて……ださ…>>

ナニ、言ってんだ??

断続的にプツリと言葉が途切れて聞こえてきたが、何を言ってるのかわからない。
激痛とともに再び謎の声が俺の頭に何かを伝えようと語りかけてくる。

何だっていうんだよ…。
後で…いくらでも…痛がってやる…くッ…から…ぐぅッ!!
だから…ッ、今は…邪魔だッ…!!
とっと消えうせやがれええええぇぇぇええええぇッッ!!

<<わたしのご主人様を…たすけてくださいっ!!>>

そのとき、俺の頭の中で何かがはじけた。
その瞬間、俺の視界がパァーッと真っ白になり、脳裏にふと何かの映像のようなものが流れる。

(な…なんだこれ。……これは、昔の俺だ)

ということは、これは俺の…記憶なのか?
でも、これはいつの頃の記憶なんだ。…俺は、知らないし…こんなの覚えていない。
この時、俺の頭の中でなぜか過去の記憶らしきものがリフレインしたのだった。

『らしき』と言うのは本当に俺の記憶かどうか疑わしかったんだ。
だって、俺はどれ一つ記憶にはないし、オレハシラナイ。

映像を見る俺は、まるで映画館でスクリーンを通して映画を見ているような感覚を覚えていた。俺は食い入るようにその記憶の映像を見ていた。…まるで、キオクヲトリモドソウとするかのように。

記憶の映像はどんどんと流れていく。