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光と陰、そして立方体

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「『まずは相手を知るべし』かぁ、ガキのくせにいっちょまえな事言うよな、あの子」織恵は先日彼女が名付けた『キューブ少年』が言ってたことを思い出した。今までただ漠然と会社説明会に参加してたけど、そこで就職するのだから、そこがどんな会社なのかを知るという、極々当たり前のことに気づかされた。そういう感じで考え方を変えて行くと、厳しい中にも対策のようなものが見えて来て、エントリーシートや履歴書等の書き方も変わってきた。

 いつもの時間のいつもの帰り道。織恵の定義で『風景の一部』から一歩前進した少年は相変わらず握り拳大の立方体と向き合っている。彼の表現で言えば「戦っている」と言った方が的確か。その姿を見て何故か元気になった織恵は彼を無視して通り過ぎることはできなかった。
「おーい」
「あ、織恵姉さん」
 どうやら顔と名前は覚えてもらったようだ。毎日彼がキューブと戦っているのを見ているうちに、いつしか織恵もその過程が気になっていた。名前を呼ばれると言うことは彼の繰り広げる戦いのギャラリーとして許可されたと勝手な解釈をしたが、当の光はそこまで深いことは考えていなかった。
「ちょっと見てえな、コレ」
 織恵が横に座ったと同時に光はいきなりフレンドリーに話しかけてきた。この辺がやっぱり子供だ。ま、前フリ考える手間省けたからいいか。
 光は完成した青い一面を織恵の目の前に突き出すと、視点が近すぎて織恵は思わずのけ反った。
「スゴいじゃない、一面揃ってるよ」
「何回崩しても作れるで」
 光は折角揃えた一面を崩して今度は黄色で一面を作る。一面を揃えるのは確かに凄い、しかし光の手を見ると、織恵にも出来そうな気がしてきた。
「織恵姉さんもやってみる?」
「いいの?」
 光は織恵の顔に書いてあることを読むかのように、彼女にキューブを手渡した。織恵はそれを手にしてあらゆる方向に回してみた。店頭にサンプルなどで置いてあるのをよく見かけるが、実際遊んでみるのは始めてだった。六面完成は難しいというのはすぐに理解できたが、くるくる回している内に、一面だけならできそうな感じがした。

「あら、できちゃった……」
 適当にキューブを回していたら織恵の手の中で、白い一面がこっちを向いている。案外簡単にできたけど、ちょっと嬉しくなって白一面を光に見せた。
「それじゃあブーッ、やで。見てみいな。違うねん。ココや、ココ」
 光は織恵からキューブを取り上げ、白い面を上にして、側面の上段を回しながら指でその段をなぞった。
「織恵姉さんが揃えたのは表面だけやねん」
 確かに織恵が揃えた白の一面、しかし側面の色はバラバラだった。
「最終的な目標は六面制覇やから、横の面も揃えな意味ないねん」
 光は小気味よくキューブを回すと、みるみる内に青の一面が揃った。さっき言われたように表面でなく、側面を見ると青いキューブの側面は、時計回りに黄色、オレンジ、緑そして赤と綺麗に揃っている。
「人間と一緒で上っ面しか見てなんだら痛い目遭うで。やっぱ奥が深いわぁ、俺の相手に相応しい」
「何を言うてんのや、このガキんちょは……」
 織恵は小さいくせにドヤ顔で人生語ったように話す光に心の中でツッコミを入れた。関西弁がつい伝染している。やっぱりこの「ガキんちょ」にペースを掴まれているのだろうか。
 いずれにせよ、織恵はその言葉が自分に言われているような気がしてならなかった――。


作品名:光と陰、そして立方体 作家名:八馬八朔