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光と陰、そして立方体

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 織恵は自分の事を色々説明した、光は理解しているかは確認しなかったが、とにかく頷いて聞いていた。
「学生なんや、ほんで何歳なん?」
 光はプライベートな事を質問することを許されたと思うと嬉しくなり、ほぼ毎日見かける織恵の事をもっと知りたくなった。
「女性に歳を聞くのは失礼なんよ」そう言いながらも織恵は笑っている。「私は22歳、来月23になるけど」
「真凛と一つしか変わらへんの?光は思わずそう言ったあと、マズい顔をして言葉を詰まらせた「……いや、何でもない」
「マリン?誰のこと?」織恵は反射的に言葉を跳ね返した。それを正面から受けた光の顔が明らかに曇ったのを見て、無意識に言った言葉を詫びた。 
「ごめんね、言いたく無いことなら言わなくてもいいよ」
 織恵は笑顔を見せた。
「別にエエんやけど……」光は織恵から目を逸らして、握りしめたキューブに視線を移した「真凛は母親なんや、一応」
「えーっ!あんたのお母さん、私と一つしか年変わらないって……光くんはいくつ?」
「……小三」
 織恵は頭の中で珠を弾いた。『真凛』が光を産んだのは15、16の時ではないか。自分もそうだが、その年齢だったら普通は高校生だ。子供がいるどころか、その段階にさえ至っていない。
「名前で読んでるんだ、お母さんのこと」
驚きを隠せない織恵は精一杯のフォローをする。
「ああ、名前で呼べって真凛が。外で『お母さん』って言ったらコレやからなって」光は親指を下に向けた。「最近は一緒に外でる事も無くなったけど……」
 光はさらに話を続けようと思ったが、織恵の顔を見ると次の言葉が封じられた。根拠は無いが、自分の事を話すと友達が自分からフェイドアウトする苦い経験を何度も味わって来た記憶が甦った。
 織恵は初めて光と接して以来「何と威勢のいい子供なんだ」と思っていたが、それには理由があることが解った。
「光くん……」
元気なのは寂しさの裏返しだ。大学の講義で聞いたことがある。光にまつわるデータを考慮すると、大体どんな環境にいるのは容易に推測出来た。よく考えたら家で出来る遊びを四六時中一人公園でしている事にも何か理由があるのだろう、織恵はそう思わずにはいられなかった。
 光は何かを忘れようとがむしゃらにキューブを回す手を止めた。織恵が自分を見ているのを感じていた。長い沈黙のあと、横を向くと光は母親と一つしか変わらない織恵に視線を捕らえられた。
「私たちは友達だよ」
 小さな光はこの公園でしか会わない自分を必要としている――、そして織恵は光をもっと理解したい、そう直感した。今は何もしてやれないが、自分が言ってやれる一番の事を言って笑顔を見せた。
「やめてえな、何かこそばいわ」
 光は織恵から目線を逸らせた、というより目を合わせられなかった。初めて出来た友達、本当は嬉しくて大声を出したいくらいだったのに、光はそれ以上何も言えず、こみ上げる感情を止めるのに必死で、織恵と出会せてくれた「それ」を握りしめて感謝した――。



作品名:光と陰、そして立方体 作家名:八馬八朔