光と陰、そして立方体
友達
「ねぇ、真凛。お金無いんやけど……」
――ダメだ、今日は時化の日だ。
光は物心付いた頃から毎日人の様子を窺いながら生きてきた。海と一緒で人には「時化」と「凪」があって顔色を見ただけでそれが解る。
今日は逃げるが勝ちと判断した。最近違う人が出入りするようになってから真凛の流れが読めない。以前にもそんな時があった。その時真凛はしばらく帰って来なくなり、思い出したくないような経験をした。負の選択ではあるが、それでも今の光には自由がある。こんな真凛でも光にしてみれば「金ヅル」だ。不本意ではあるが取扱いには十分注意さえすれば自分の自由は確保出来る。
「今日も行くかぁ……」
光は今日もキューブを手に取って、真凛がいなくなる時間までいつもの公園に行く事にした。
家にいるといいことがない。真凛が「時化」の時は勿論、「凪」の時は知らない人が家にいて、何かすると物を投げられたりするので結局夜になって真凛が出かけるまではここにいる。夜中は大体一人だから、部屋で自由に出来る。真凛がいなければ誰も来ることがないし、光が起きている間に家に誰かが来ることもない。
これらが光の家での「定義」だ――。
作品名:光と陰、そして立方体 作家名:八馬八朔