言い訳したい恋
高校の入学式当日、新一年生の集合写真に写るノボルの髪は黒く染まっていた。
よく見ると斑模様の髪は、日光を浴びると赤く見えた。
あの日、意気揚々と家に帰ったノボルは、いつもは言わない「ただいま」を大
きな声で言って、両親を驚かせた。
「ちょっとこっち来て座りなさい!」
いつも怒っている母親と一緒に、普段何をしても怒らない父親も、鬼のような
顔をして怒った。
正座してうつむきながら、そんなにいけないことをしたのかと自問自答を繰り
返した。
両親は髪を染めたことを、ただそれだけで一時間以上も怒った。
昼食をはさんで、それからまた怒られた。
反省するよりも、どうして髪を染めようとしたのか疑問にも思わない両親に、
ノボルは腹が立った。
歌いだしそうなくらい楽しかった帰り道。ようやく人並みになれた喜びを否定
されたような気がして、腹が立った。
怒られたことなんかじゃなくて、その気持ちを読み取ってくれなかったことが
悔しくて、ノボルはお風呂場で静かに泣きながら黒染めをした。
数千円もした茶色は、その夜に千円に満たない黒色で洗い流されてしまった。
怒りすぎたと反省したのか、申し訳なさそうな父親に呼び止められて、ナイス
カラー、とよく分からない声援を受けた。
元の黒髪になってしまったが、それでもノボルの心は晴れていた。
あとになって高校デビューだと笑われたそれは未遂に終わったが、一度手にし
た自信は、まだ心の中に残っていた。
自分だって輝けるのだと、証明できたような気がした。