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しむろにと
しむろにと
novelistID. 51213
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言い訳したい恋

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 高校の入学式当日、新一年生の集合写真に写るノボルの髪は黒く染まっていた。
 よく見ると斑模様の髪は、日光を浴びると赤く見えた。

 あの日、意気揚々と家に帰ったノボルは、いつもは言わない「ただいま」を大
 きな声で言って、両親を驚かせた。

 「ちょっとこっち来て座りなさい!」

 いつも怒っている母親と一緒に、普段何をしても怒らない父親も、鬼のような
 顔をして怒った。
 正座してうつむきながら、そんなにいけないことをしたのかと自問自答を繰り
 返した。

 両親は髪を染めたことを、ただそれだけで一時間以上も怒った。
 昼食をはさんで、それからまた怒られた。

 反省するよりも、どうして髪を染めようとしたのか疑問にも思わない両親に、
 ノボルは腹が立った。
 歌いだしそうなくらい楽しかった帰り道。ようやく人並みになれた喜びを否定
 されたような気がして、腹が立った。

 怒られたことなんかじゃなくて、その気持ちを読み取ってくれなかったことが
 悔しくて、ノボルはお風呂場で静かに泣きながら黒染めをした。
 数千円もした茶色は、その夜に千円に満たない黒色で洗い流されてしまった。

 怒りすぎたと反省したのか、申し訳なさそうな父親に呼び止められて、ナイス
 カラー、とよく分からない声援を受けた。

 元の黒髪になってしまったが、それでもノボルの心は晴れていた。
 あとになって高校デビューだと笑われたそれは未遂に終わったが、一度手にし
 た自信は、まだ心の中に残っていた。

 自分だって輝けるのだと、証明できたような気がした。

作品名:言い訳したい恋 作家名:しむろにと