言い訳したい恋
ほんの数年前までは、とある業界大手の子会社にいた。
一流とは言えない大学の出身にしては恵まれた優良企業で、都心からさほど離
れていない静かな街の事業所で働いていた。
目標も夢もこれといってなかったから、仕事にだけ向き合った。
業績を上げ、同期の中では異例の早さで昇進を果たし、客先でも注目されるよ
うになると、次々と足をひっぱる連中が現れた。
気が付けば孤立していた。
仕事もままならなくなって、とにかく面倒くさいことを避けながら、あっさり
と辞めた。誰のせいにもせず、不利な条件もすべて呑んだ。
次の職も何も決めておらず、再就職する気もなかった。
使い道もなく蓄えたお金を切り崩しながら、半年ほど食べて寝る生活をしたあ
と、ご飯を食べることも面倒に感じた事を危うんで、実家に帰ることにした。
俺の居場所ある?と電話すると、両親は怒ったように帰ってこいと言った。
東京から数時間ほどの距離にある実家では、両親が想像以上に老いていて、小
さくなっていた。心配だから帰ってきたと嘘をついた。
本当は社会から脱落したならず者を、両親は子ども扱いしてなんでもしてくれ
る。心が痛んだ。
けれど、実家に帰っても、することはほとんど同じだった。
食って寝て、時々近くの海に行ってあるかどうか分からない世界の果てを見つ
めた。
仕事を探そうともしない姿を見て、母親は次第に以前のように厳しくものを言
うようになった。
変わらず東京で仕事をしている年の離れた兄も、親を困らせるなと言った。
気が付かないうちにひどく弱っていた心は、毎日のように続く常識的で正論な
小言に耐えられなかった。
どこにも居ることを許されない。そんな思いが心にきつく巻き付いた。