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しむろにと
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novelistID. 51213
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言い訳したい恋

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 ほんの数年前までは、とある業界大手の子会社にいた。
 一流とは言えない大学の出身にしては恵まれた優良企業で、都心からさほど離
 れていない静かな街の事業所で働いていた。

 目標も夢もこれといってなかったから、仕事にだけ向き合った。
 業績を上げ、同期の中では異例の早さで昇進を果たし、客先でも注目されるよ
 うになると、次々と足をひっぱる連中が現れた。

 気が付けば孤立していた。
 仕事もままならなくなって、とにかく面倒くさいことを避けながら、あっさり
 と辞めた。誰のせいにもせず、不利な条件もすべて呑んだ。

 次の職も何も決めておらず、再就職する気もなかった。
 使い道もなく蓄えたお金を切り崩しながら、半年ほど食べて寝る生活をしたあ
 と、ご飯を食べることも面倒に感じた事を危うんで、実家に帰ることにした。

 俺の居場所ある?と電話すると、両親は怒ったように帰ってこいと言った。

 東京から数時間ほどの距離にある実家では、両親が想像以上に老いていて、小
 さくなっていた。心配だから帰ってきたと嘘をついた。
 本当は社会から脱落したならず者を、両親は子ども扱いしてなんでもしてくれ
 る。心が痛んだ。

 けれど、実家に帰っても、することはほとんど同じだった。
 食って寝て、時々近くの海に行ってあるかどうか分からない世界の果てを見つ
 めた。

 仕事を探そうともしない姿を見て、母親は次第に以前のように厳しくものを言
 うようになった。
 変わらず東京で仕事をしている年の離れた兄も、親を困らせるなと言った。

 気が付かないうちにひどく弱っていた心は、毎日のように続く常識的で正論な
 小言に耐えられなかった。

 どこにも居ることを許されない。そんな思いが心にきつく巻き付いた。

作品名:言い訳したい恋 作家名:しむろにと