言い訳したい恋
ノボルは中学生になった時、とにかく人の多さに驚いて萎縮した。
近隣の複数の小学校から生徒が集まっていて、どこを見ても知らない顔しかな
かった。
木造の小さな小学校で過ごしたノボルにとって、そこは違う世界に来たように
感じられた。
同じ小学校の友達は最初こそ一緒だったけれど、次第に打ち解けて、ノボルの
側からいなくなっていった。
ノボルはどうして人は変わっていくのか、理解できなかった。
突然、裏切られたような気持ちになって、許せなかった。
今までのように、サッカーや鬼ごっこをして、笑っていたかっただけなのに。
誰もが何か役割を与えられたように、いつのまにか別人になった。
子分のように扱ってきた弱々しい友達も、流行に敏感な面白い奴に変わってい
く。
悪いことが格好良いという風潮があって、夜遊びやケンカ、恋人の自慢が聞こ
えてきた。
一人だけ取り残されたような寂しさと、激しい嫉妬を怒りで覆って、人との関
係を一方的に拒絶した。
見られたくない心を隠すには、怒りと沈黙が効果的だった。
あいつらは間違っている。僕は、「正しいこと」をする人間になろう。
ノボルは誰もやりたがらない、自分だけの役割を、自分に与えた。
すぐに一人ぼっちになった。
寂しくてたまらない時もあったが、一人でいることに慣れるのは早かった。
誰かと過ごす時間がなくなって、ノボルはひたすら勉強や学校のあらゆる行事
を真面目に取り組んだ。
いつしかマジメ君と陰口を叩かれるようになったが、「正しいこと」をして何
が悪いのだと、開き直った。
そのままあっという間に卒業式を迎えた。
卒業アルバムが配られると、クラスのみんなは競うようにアルバムに思い出を
書きあっていた。
思い出を書き綴るための空白が、見開きで大きく用意されていた。
ノボルはその間、頼まれても書いてやるか、書かれてたまるかとアルバムを枕
にして机に突っ伏した。
最高に惨めだった。
誰にも声をかけられなかった卒業式のその日、間違っていたのは自分だという
強い後悔が、心に深く沈んでいった。