言い訳したい恋
「高科はぁー、どの子が好みかなぁー」
ノボルが背中を向けると、挑発的な発音の言葉が浴びせられた。
面白くなると察知したクラスメイトたちが探そう探そう、と言って盛り上がる。
しかたがないという態度でゆっくりと振り返ると、もう一度そこにあったもの
を見る。
自分のいない所で、謂れのないレッテルを貼られるわけにはいかない。
「勉強好きなノボル君は、こういうメガネっ子がいいかもな」
タカヤは得意げに、大きなページの中から一つの顔を指差した。
ノボルは人の間に挟まって、その顔をよく見る。
まるで真面目な人間だと決めつけたようなタカヤの言い草に、少しだけ苛立っ
ていた。
指の先にいたのは、確かにメガネが似合っている長い髪の可愛らしい女の子だ
った。それだけで、他には特に言うことはないな、と思った。
ノボルは人の品定めをするような行為が嫌いだったから、素っ気ない態度をと
ってしまいそうになる。
でも、今は違う。こういう時は、性格が悪そうだとか、実はガサツだと思うと
か、もっと場を盛り上げるノリが必要だと知っている。
ただ、思ってもいないことを言うのは心が痛むし、とても疲れるとタカヤとた
くさん会話をして、ノボルは学んでいた。
どう答えようか考えながら、うーん、と唸って首を傾げる。
「メガネは違うなあ。やっぱりショートカットだろ」
好みを教えつつ、あえてタカヤの答えを否定した。
するとタカヤは女の子を指していた指をノボルに向けて、力強く「分かる」と
言った。
妙に芝居がかっていて、クラスメイトの何人かが笑った。
タカヤは気を良くして、他の可愛い子を探してページを素早く捲っていく。
待ってろ高科ー、と別に期待してもいないのに、どうしても人の好みの女の子
を見つけたいらしい。
一冊、二冊と目を通して、女の子の顔だけを見ていたはずのタカヤが、ふと手
を止めて言った。
「そういえば高科って中学校どこだっけ」
ノボルにとって、まだ癒えていない傷を掴まれた気分だった。
嫌な流れを感じ取って、心が騒ぎ出す。
この流れからいくと、きっと避けられない。
机の上を占拠していた様々な中学校の卒業アルバムの中には、ノボルのいた中
学校の名前はなかった。