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しむろにと
しむろにと
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言い訳したい恋

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 人見知りのくせに声をかけることは怖かったが、待っているだけではダメだと、
 ノボルは何度も自分に言い聞かせた。
 何か声をかけるきっかけさえあれば、あとはどうとでもなるはずだ。
 思い切ってキョロキョロと教室の中を見る。

 調子のいい奴はどこにでもいて、近くの生徒にいたずらを仕掛けては、仲良く
 なろうと図っている。
 ノボルはとても真似が出来ないと、羨ましく思った。

 眠くもないのに、机に突っ伏してしまった奴のようにはなってはいけない。
 なんとかして誰かと仲良くならなくてはいけない。
 そんな使命が課せられた気がしてくる。
 落ち着きを求めて、普段はしないのに足や腕を組んで、虚勢を張った。

 早く、早くと焦りは募ったまま、先生が現れるまで結局誰とも話せなかった。
 友達ってどうやって作るんだっけ、と心の中でつぶやいた。

 やっぱり駄目だなと落ち込んで、チャイムが鳴る前に教室に入ってきた先生を、
 待ち遠しくも、恨めしく思う。
 もう少し来るのが遅かったら、きっかけが見つかって話せたかもしれないのに。

 出席確認と先生の自己紹介が簡単に終わると、高科君、と先生に名前を呼ばれ
 て、恨めしく思った心を読まれたのかと驚いた。
 起立するように言われて即座に立とうとするが、ガタガタと音ばかり鳴って、
 椅子が絡んでうまく立てない。

 周囲からクスクスと笑う声が聞こえた気がして、顔が赤くなっていく。
 もしかしたら、髪の事で怒られるのかもしれない。
 次々と不安を駆り立てられながら、先生の顔を見た。
 目つきが悪い先生だなとノボルは思った。

 学力なんてそっちのけの理由で選択した高校だったが、それが結果として良か
 ったのか、ノボルは入試試験の成績がトップだったと先生は言った。
 さっきまで静かだった教室が、拍手と共に控えめに盛り上がる。

 名字の五十音順で割り当てられた席は、ノボルを教室の中央近くに据えた。
 視線が集中して、気恥ずかしさと嬉しさが込み上げた。
 しきりに髪をかき乱して、なぜか涙が溢れそうになる目を、しばたたかせて誤
 魔化した。

 休み時間になると、ノボルと同じことを考えていたのか、話すきっかけを掴ん
 だクラスメイトたちがノボルに寄り付いてきた。

 「頭いいんだな」
 「もっと上の学校狙わなかったのか」
 「なんで髪が赤いの」
 「もしかして不良?」

 話しかけられる言葉は二つに分かれて、勉強のことか、髪の色のことだった。
 思いのほか髪の色が目立っていて、入学式が始まる前から注目されていたが、
 警戒心が勝って話しかけるきっかけにはならなかったらしい。

 入学式を前に髪を染めていた奴なんて、ノボルくらいだったのだ。
 それを知って、途方もなく恥ずかしくなると同時に、親に少しだけ感謝もした。

 ノボルは人の輪の中心になって、何度も同じ質問をされて、何度も同じ説明を
 した。けれど、苦にならなかった。
 急に人気者になった様で大いに戸惑ったが、過去の暗い面影を出すこともなく、
 ノボルは心の底からたくさん笑った。

 高校生初日は、最高の結果に終わった。
 鼻歌を響かせて自宅の部屋に着くと、どっと疲れを感じて、そのままベッドに
 倒れこんだ。

 あんなに笑ったのは、いつ振りだっただろうか。
 笑いすぎて、頬が痛い。
 幸せな痛みだな、と頬をマッサージするようにさすって、夢のような一日を何
 度も反省した。

作品名:言い訳したい恋 作家名:しむろにと