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地獄の黙秘権

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《黙★其の弐》



 

連休に両親に連れられ、父親の故郷を訪れた少年は 何となくつまらなかった。
友だちは、大型レジャー施設へ行くとか 海外に行くとかそんな話をしていた。
少年は、近場のテーマパークでも ショッピングセンターのゲームのできる場所でも 映画館でも良かった。遊園地や動物園行きたい場所はたくさんあった。
なのに どうして いわゆる『おじいちゃんおばあちゃんのうち』なんだと不満だった。
それでも 街中ならばそれなりに楽しいのだろう。
しかし、田園の中に取り残されたようなところにある家だ。夕暮れには綺麗な夕焼けが見られ、夕日が沈むくらいまで見られる なぁんにも邪魔するモノなどないところなのだ。
夜空の月明かりとたくさんの星を邪魔する明りなどない。あるとしてもこの家の明かりぐらいだ。テレビは見られるが、何週遅れているんだと思うほどズレていた。もう内容もわかっている。他の番組と言っても チャンネルは あと国営のものくらいだ。
「この辺りは 自然のままだね」
両親にそう話す父親の横で 日頃は便利が大好きな母親が もっともらしく頷いていた。
「そうでしょう。子どもの頃は よく虫を捕まえてきたり、流れ星を見たりしていたね」
「まだ 虫はたくさんいるの?」
「虫の声で おじいちゃんと話していなくても寂しいなんて思わないわよ。小川には めだかが泳いでいるし」
「そうか。でもそろそろ街までの買い物も大変だろう」
「なあに 生協さんが週に一回来てくれるから 不便しとらんよ」
少年にとっては 長閑過ぎる会話だった。
持ってきた小型ゲーム機は、やり尽くしてしまっていたし、幼い頃の父親のように 自然との戯れ方など知らないし、したいとも思わなかった。
部屋で ぼんやりと過ごしながら 廊下との境の障子戸が妙に気になった。
(夜中に あそこにぼんやりと影が映って。げ!考えるんじゃなかった。怖くなってきた)
少年は、考えた。
障子で外の様子がぼんやりとしかわからないから 恐怖を感じるんだと。

プスッ… プスッ… 
小気味いい音と感触が手先に伝わる。
プスッ… プスッ… プスッ… プスッ…
心が笑う。 くくくっと 気持ちが晴れてくる。
止まらないじゃないか。もうひとつ プスッ… 

翌朝、朝食のときに尋ねられた。 
両親と祖父母と少年の間に嫌な重い空気と間があった。
「障子は珍しいかね」
「間違って 手を突っ込んだのよね」
「おとうさんも昔 勢い余って やっちまったな」
「申し訳ありません。もうこの子ったら。ほら、謝んなさい」
少年は、暫く何も言わずに大人四人の会話のような弁解のような話を聞いていた。
「出たんだよ。あいつの仕業さ」
少年は、それっきり何も言わなかった。
 

作品名:地獄の黙秘権 作家名:甜茶