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地獄の黙秘権

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《黙★其の参》



 

春うらら。気候も良くなってくると、お出かけ虫が騒ぎます。
日頃は、くち五月蝿かったり、虫(無視)されることや虫唾が走るなんてこともあるでしょうが「行楽日和」となれば別の話。
その男も のびのびと「好楽日和」が欲しくなる。
「ねえ、今度のお休みはどう過ごすの?」
猫アレルギーのその男の耳に 猫撫で声が届く。
この声を聞かなくて済むなら毎日が「幸楽日和」なのだが…と男は思った。
「ちょっと待て。もしかすると、出張だったかもしれない」
こそこそした態度では、良からぬことを考えているのがわかってしまう。そうだと思い立ったように 会社用のカバンの中から ビジネスマンのアイテム!システム手帳を目の前で広げてだ。(ほら、どうだ! おまえの主人は 仕事虫だぞ)って思い知らせてやろう。

本当のところ、この男の「好楽」は事務の派遣できている可愛い女子社員さんとのお忍び一泊旅行計画だ。
週末の残業の三分の二は彼女とのデートだし、飲み会といえば、彼女と差し向かい。
休日出勤は、会社外の得意様回り見せかけ予定の彼女とのしっぽりコース。

黒い合皮の手帳を開き、ここだ、ここだと調子よく 指先をぺろりとねぶってページを捲る。わざわざ書き込んだ細かな裏工作。用意周到。準備万端。オチドはないぞ。
どっからでもかかってこい!とばかりに目を輝かせた。
「今度の週末はっと… ああ残念だ。どうしてもこの日じゃないと都合が悪いと先方がいって来てるんだ」
「あらそうなの?」
「この話が まとまりゃあ、夏はどうだか 冬のナスボーは たんまりかもしれないな」
「あらそうなの!」
「まあ、そのときと言わず、夏でもバカンスに出かけるかぁ」
「はぁ、お仕事じゃ仕方ないわねぇ」
「悪いな。おまえの内助の功あっての俺だからさ」
「まあ、うまいこと言ってぇ。桜も見頃になるみたいだから 少し遠出してみたかったけど 散歩ついでに川沿いの桜でも見て来ようかしら」
「お、健康的だね。いつまでもキレイでいてよ、俺の奥さん」
「はいはぁい。頑張ってね、ダーリン」
奥さんが、何を思ったか その男に飛びついた。猫騙しのように面食らったその男が手帳を落としそうになった。

はらり ひらひらひら

舞い落ちる桜の花びらのように 白い紙片 ひらひらりと床の上。

さっ! (速い!!)

奥さんは 拾い上げると眺めて納得しながら、下から斜め三八度の見上げ目線。おまけなんて要らないのに 笑わぬ目に 笑みを浮かべた口元。地獄の沙汰も金次第って冗談は効かないよね。と男の思考は 右往左往と足が絡まぬムカデ状態って意味不明で『春なのにぃ お別れですかぁ 春なのにぃ 背中が凍りますぅー 春なのにぃ 春なのにぃ 溜息またひとつぅ』って若かりし頃のアイドルの歌を歌ってる場合じゃなさそうだ。
「これ何?」
「紙」
「レシートとかいうヤツ?」
「そ そっかなぁ?」
「何処の店だろうね?」
「ってか おまえは 何処のってわかるの?」
「お ま え ?」
ややまずい展開。その男は転回して逃げ出したい。
「おなまえは?」
「知ってるくせに。もう何年連れ添ってるの。婚姻届にまちがいはないよ」
「誰が あなたの名前 いまさら 訊く?」
「じゃないのね」
奥さんは 手を差し出した。
「俺? お手?」
「お手帳!」
奥さんは、手首を柔軟に振って見せる。ここは ひとつ「ワン」と言ってみるか。
「ワン」とも「あ」とも言えぬ間に 取り上げられた手帳を捲り出した。
「ここは? これは? この日は? この印は? この女は誰よ?」
見せられたページには なんと 可愛い彼女のプリクラ写真。
その男は クラクラクラと 眩暈を感じてきました。
奥さんは プリプリプリと はい、しっかり怒っているようです。
「何か 言いたいことは? 言えることはあるかなぁ? 何を言いだすかなぁ?」
(俺は 貝になってしまおう。二枚貝じゃない 二枚舌だ)
(いやいや 閻魔様に 抜かれてしまうから 口を開けてはいけない)

その男は、昨夜の刑事ドラマの犯人を演じてみる。
犯人役の二枚目俳優のド渋い演技を思い出す。

『黙秘権』

犯人が口を割るとき どうなるのか? 果たして 自白するのか?
来週の続きは・・・・・ まだ見ていない。


     ― 了 ―
作品名:地獄の黙秘権 作家名:甜茶