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地獄の黙秘権

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《黙★其の壱》





高架下に夜な夜な描かれるスプレーによる落書きは誰が描いたのだろうか。
アートとしては とても素晴らしい出来ではあるが、公共の場所の無許可な行為である。
巡回の警察官の見回り時間を承知しているのか なかなか犯行を見つけられずにいた。
現行犯対策として 私服を着用して見張ることにしたが、その目つきと日頃にない行動に高架下を通るという女性に通報されてしまった。失敗だ。
何度か 巡回時間をずらし 見回りに行ったときだ。
風に紛れて 僅かなシンナーの臭いを鼻先に感じた。急ぎたい気持ちを抑え、通常の巡回ようにさりげなく近づいていく。自転車のペダルを踏む足に力が入った。
男か それとも女か。壁への描く高さから考察すると男ではないだろうかと思えた。
付近まで行くと、華奢な人物と擦れ違った。
(女? いやどっちだ? フード付きのパーカーを着用。訊いてみるか)
「失礼ですが、ちょっとお話いいですか?」
相手は、制服の警察官の姿に脚を止めた。
「職務質問をさせていただきます。今、高架下を通ってきましたか?」
相手は頷いた。
「誰かと擦れ違いましたか?」
相手は反応しない。怪しさ 一ポイント。
「誰か見かけませんでしたか?」
相手は反応しない。怪しさ 二ポイント。
「ポケットに入れている手を見せてください」
相手は反応しない。怪しさ 三ポイント。
「何か困ることでもあるんですか?」
相手は反応しない。怪しさ 四ポイント。
(あ、待て 出すか。ナイフは持ってないだろうな)
相手は、ポケットから手を出して体の横にぶらぁんと下げた。
「手をこちらに向けて 見せなさい」
相手の手は、ほっそりしなやかな指をしていた。見る限りペイントの汚れは見当たらない。
怪しさ マイナス一ポイント。
(人違いか。手袋をしていたかもしれない)
「ポケットの所持品を 見せて頂いていいでしょうか?」
相手は反応しない。怪しさ 一ポイント。
「見せて頂けないと 交番まで任意同行をお願いしないといけなくなりますよ」
相手は、携帯の電話機を取り出した後、ポケットを裏返すように引っ張り出した。
「大変失礼致しました。この先の高架下で落書きをする者を見かけましたら通報のご協力をお願いいたします」
相手は頷いたまま 警察官の横をすり抜けた。
擦れ違った反対側のブルーのペイントがついた髪先が 風に吹かれていた。
 

作品名:地獄の黙秘権 作家名:甜茶