二人の王女(7)
「ど、どうしていきなりそんなことを聞くの?」
「シェハは、おまえを気に入っているようだ」
その言葉に、あすかは思わず心臓が飛び出そうになった。自慢ではないが、あすかも学校では男の子に告白された経験もある。だが、そのときよりもずっとドキドキと心が早く鼓打った。
「そんな…ことはないんじゃない?」
あすかがやっとのことで云うと、マルグリットは対照的にとても冷静に云った。
「占術師は、本来異性に感情を抱いてはならない。恋愛も結婚も、すべてを犠牲にして生きる運命にあるんだ」
その言葉を聞いて、あすかはどこか心が落ち込んでいく自分に気付いた。
「だが、守りたい者があることは良いことだ。シェハは、おまえを守ってくれるだろう」
その言葉に、あすかは複雑な感情を抱いていた。守る、守られる…あすかは本来この国の人間ではない。あのお告げを聞き、この地へやってきた。しかし、自分がこの地に送られた理由は一体何なのだろうか。本当にアズベリーの王家の血を引いているのだろうか…
その問いを投げかけようとしたときに、マルグリットは立ち上がって云った。
「さて、そろそろ行こう。皆の者が心配しておるのだろう。様子を見に来たおまえまで帰ってこなければ、より心配するだろう」
先ほど水からあげたばかりの衣装が、すでに渇いていた。あすかは驚いたようにその衣装をまじまじと見つめた。
「術が掛かっている特殊な衣装だ、水などすぐに跳ね返す」
素早く衣装を身に着けると、二人は元来た道を戻った。
陽は既に傾き始めていた。本来行くべき道であった森は毒に冒され、大地さえ毒に冒された人々で埋め尽くされていた。進路を変更せねばならない、マルグリットのその言葉に、その日はこの泉の畔で夜を明かすことになった。
焚き火を起こし、シェハが用意した煎じ茶を飲みながら、次に取るべき進路について話し合いがなされた。
「エンゲルンを渡るしかあるまい」
マルグリットの言葉に、周囲は動揺を隠せなかった。適地を突破することは、自国を危険に晒しかねないのだ。だが、マルグリットの意志は強かった。
「 我々が毒の巣窟に入るのは躊躇われるが、森が閉ざされ、大地が閉ざされた今、エルグランセの洞窟へ辿り着く方法は、それしかあるまい。