二人の王女(7)
おそらく、あの大勢の毒に汚染された者たちは、エンゲルンの者たちだろう。今、エンゲルンは崩壊状態にあるはずだ。あの者たちは、助けを求めて他国を目指したに違いない。我々が侵入したところで、さほどの影響はないはずだ」
「でも」と、あすかが云った。
「エルグランセの洞窟に一番近いのはあの国なのでしょう?それなら、ラズリーの花を採りに行かないかしら?」
「花を得たのであれば、窮地は救われているはずだ。察するところ、花は得ていない。それに、あの身を壊した者が最後に云った、王も騎士もすべて…と。おそらく、王室の者も騎士たちも、すべて冒され亡くなったのだろう。戦う者なしに、エルグランセの洞窟を突破することは不可能だ」
マルグリットの話は正論らしく、四人は大きく頷いた。
「エルグランセの洞窟って、そんなに恐ろしいところなの?」
そうあすかが訊ねると、五人は顔を見合わせて小さく笑った。
「エルグランセは、ジョハンセの巣窟だ」
ジョハンセ、と云われて、すぐにあの崖での惨状が思い起こされた。あの、得体の知れない生き物がうじょうじょしているわけだ。確かに、戦う人なしには、入ることはできないだろうと思った。
「夜明けと共に、エンゲルンを突破する。今宵はよく体力を回復しておくように」
マルグリットがそう云うと、二人ずつ番を付けて、就寝することになった。
「明日は、エルグランセに入る」
ここまで来てしまえば、もう後戻りはできない。あすかは、自身の置かれた状況に意味を求めることをやめ、ただ束の間の眠りに身を委ねた。