二人の王女(7)
「遅いから、心配になって見にきたの…その、あたしは同じ女だから、行っても問題ないかと…」
「心配を掛けてすまない」
マルグリットは、泉に浸した衣装を草の上にあげて云った。
「もう大丈夫だ」
そう云う、マルグリットの身体が濡れていることに気がついた。戦いの装備だけを身につけたマルグリットは、身体を拭くようなものを持ち合わせていないのだろう。あすかは、慌てて鞄を開け、タオルを取り出した。
「これ、よかったら…」
マルグリットに歩み寄り、タオルを差し出す。マルグリットは驚いたようにあすかを見たが、それを受け取った。
「おまえの鞄には、タオルが入っていたのか。用意がいいな」
「学校に行くときいつも持っていくから…」
汗かきのあすかは、ハンカチの代わりにいつもフェイスタオルを入れていた。それがこんなところで役に立つとは思わなかった。
マルグリットはそのタオルで身体を拭くと、衣装を絞り始めた。
「その格好じゃ、寒いわ」
あすかは、アークから借りていたマントを差し出した。マルグリットは最初、それを躊躇した。
「私の身は毒に晒されている…このマントも身につければ…」
「きっとアークは気にしないわ、貴女のこと、とても大事に思ってるみたいだもん」
それは、ずっと感じていたことだった。アークはマルグリットをただの騎士の仲間だと思っているわけではなさそうだった。
「マルグリットは、アークのことどう思ってるの?」
何気なく聞いてみると、マルグリットは険しい表情で云った。
「私は王室の王女であり、剣だ。そのような感情は、持たない」
厳しい口調に、あすかはそれ以上は聞くことができなかった。
「アークは…私を守ると、この旅を共にしてくれたんだ。だが、やはり一人で行くべきだった…下手すれば、毒は…」
「今さら気にしても仕方ないわ」
先ほどまであれほど恐れていた毒なのに、あすかは今はすっかり冷静を取り戻していた。マルグリットから毒がうつったらどうしようと、あれほど恐怖を抱いていたのがまるで嘘のようだった。
「アスカ、おまえは強いな」
「強くなんかないわ、現に剣なんて使えないし、いつもシェハの後ろに隠れているだけだし」
「おまえは、シェハを好きか?」
突然そんなことを聞かれて、あすかは思わず咳き込みそうになった。だが、精霊が起きると、寸前で飲み込んだ。