アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一の呟き
この味なんの味?
「実家に帰っていました。よろしければどうぞ。 105号室 遠道」
いつものキッチン、いつもの場所に、当たり前のようにそれは置かれていた。
一応開封されている。
蓋には「この味なんの味」とロゴが入っている。
箱を開けると、まだ誰も手をつけていないようだが、真っ先に自分が手をつけてしまっていいものだろうか。
というか、前回も真っ先に自分の名前がメモ書きしてしまったんだが、毎度毎度一番先に手をつけて、意地汚い子と思われたりしないだろうか。
まぁ、意地汚くないかと言われれば『生き汚い』方なので否定はできないが。
「まぁ、いっか」
一個手に取る。
そして例によって残されていたペンで、スラスラといつも通りのメッセージを残す。
『ご馳走になります。302号室 藤井』
…というか、見た目饅頭なんだが、パッケージに書かれていた名前からして妙に気になる。
何か変な味でも入ってるのだろうか?
個別包装されていた饅頭の袋を開けて、祐一はパクリと一口目を噛んでみる。
中身はぶどうのジャムとくるみが混じった物が入っていた。
「………??」
…普通?
味はそんなに悪くない。
「!?」
だが、祐一は饅頭の底面に、一枚の紙が挟まっているのを見逃していた。
それに気付いて、紙片をペリペリと剥がす。
(…何か書いてある)
紙片の底面に、外側からは見えないように書かれていた文字、それは―――
『木に生る味』
その場に突っ伏すと同時に、土曜の二十二時頃に流れる曲が、祐一の脳裏に木霊した。
『このー○ なんの○ きになる○―』
作品名:アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一の呟き 作家名:辻原貴之