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白にんじん
白にんじん
novelistID. 46309
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冬月さんと、祝福の世界のもとで

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 バスは定刻どうりに来た。早速乗ると、車内は八割程度埋まっており、数
個停留所を過ぎると多分埋まってしまうほどで、何とか二人座れた。
 俺達はどちらともなく、二人座れる座席の方に向かい、二人並んで座った。
「どれぐらいで着くの?」
「なんだ、自分が言い出したくせに、十五分から二十分だろう」
 俺は少し笑いながら答える。
 バスが走りだし、信号を抜けるたびにショッピングモールまで近づいてい
くのが実感できる。俺は胸が高鳴るとともに、変な緊張で手に汗が滲んでい
た。
 そこまで緊張しなくても、別に何も問題はないと自分に言い聞かせる。そ
う、俺の緊張はただの妄想だ。妄想が結実しただけだ。こう俺が妄想的観念
を持つ間にも、刻一刻としてショッピングモールに近づく。
 ショッピングモール最寄りのバス停に着いた。運賃は四百円だった。結構
高いものだ。下りてショッピングモールまで歩いて行くと、休日ということ
もあり中学生や高校生がウジャウジャといた。映画館もくっついているし、
いかにも土日は人多そうだ。カップルとか……多いのだろうな。
 今まで気付かなかったが、冬月さんがわざわざここを指定したのは何が見
たいからなのだろう?
「ここで何を見たいの? 服?」
 俺は冬月さんの方を見て聞く。冬月さんは相変わらず俯き加減だった。機
嫌が悪いのか? でも声色からはそうは思えない。どうなんだろう……。本
人に直接聞くのも芸がないな。もしかして俺と同じように緊張しているのだ
ろうか?
「うん、服が見たい」
「じゃあ俺はその間に本を見たいね。待ち合わせをしよう。二乃宮さんに頼
まれたものは一番最後だ」
「うん」
 冬月さんは同意する。
「待ち合わせはどこにするかな」
 こうやって話しながらショッピングモールの入口を入り、人混みの中に紛
れていく。人混みは苦手ではない。しかし老若男女いるな。待ち合わせはわ
かりやすい場所でないと困るなあと考える。となると、自販機が密集してい
る割に人が少ない場所があるんだが、そこにするかな。
「おい、お前ら……」
 その時、不意に横から声がした。その声には聞き覚えがあった。立川だ……
何でこんなタイミングで会うというんだ……。立川は結構驚いている。それ
もそうだろう。俺も驚きだ。
「お前ら、そういう仲だったのか……全然知らなかったよ。ふーん。冬月さ
んかわいいしね」
 そうやって言い、立川は俺と冬月さんを交互に見回していた。その目線に
はまとわりつくような、探るような感じがあって不愉快だった。何となく、
冬月さんにそんな感じをさせたくなかった。それは俺の驕りだろうか。
 冬月さんの方を見ると、少し立川から目線を逃していた。
「いや、たまたまなんだ」
 俺は立川に苦しい弁明をする。
「たまたまだ? それはないだろう。そんな偶然があるか。二人共最初から
一緒にここまで来たんだ。雰囲気がもうそうなんだよね。ていうかそれぐら
い気づけ。鈍いのか鋭い切れ者なのかわからない奴だな」
「立川は何しにここに来たんだ?」
 俺は話をそらそうとする。
「俺は映画を見に来ただけだ。一人はわびしいよな」
 そうやって言い、立川は併設された映画の方へ去った。ちょっと凹んだよ
うな様子だった。
「あ……」
 俺はその場を取り繕うとして言葉を出したが、続かなかった。僅かばかり
の沈黙が、俺達二人の物理的な距離に発生した。時間は止まったかのように
感じられ、それはまるで周りの喧騒に取り残されているかのようだった。俺
がさらに何か言おうとした時、先に冬月さんが口を開いた。
「映画、見たいね」
「あ、うん」
 時間は再び刻まれだし、周りの喧騒にシンクロしたかのようにすら思う。
でも映画を見るまで軍資金があるかどうかは疑問だ。昼はここで食べる計算
だから。こんなことなら余分を持っておくべきだった。
「映画代まで無いかもしれない」
 俺は少し落胆の色を見せながら言う。ここまで来てこんな展開はない。
「いいよ、私が映画代ぐらいは出す」
 それも何だか俺は少し情けないような気がしてきた。でもどうすれば良い
のか、ない袖はそもそも振れないわけで。
 ここは素直に従うとしよう。
「わかった。頼もう」
 その後、取り敢えず今日上映予定の映画を見るために映画館の方へいく。
買い物はいつ行ってもあるけど、映画は時間が決まっているので仕方なし。
 エスカレーターに乗って三階まで上がる。三階は映画館と後、飲食店が
ある。冬月さんは何を食べたいのだろうかと思う。さり気なく聞くべきだ
ろうか?
 三階について映画館の方を見ると結構並んでる。やばいな。当日券の列
に並ぶ前に何を見るのか決める必要がある。俺達二人はどちらともなく、
ポスターがベタベタと張っている壁の方へ向かう。
 映画館とか久しぶりに来たのでなんかアレだな。最近は進化してるんだ
なと思った。おしゃれな雰囲気を醸し出している。
 昔、小学生やら子供のときに映画館に来たことはあるけど、その時とは
違う感想を持った。
 ポスターは一見乱雑に貼ってあるが、本当に乱雑なら見難いはずで、逆
に見やすいということは真に乱雑ではないのだ。今風に言えばスタイリッ
シュであり、言い過ぎれば規則性、法則的な何かがあるのだ。
 ポスターを見回す限り、今日やってるのは恋愛もの、アニメ、サスペン
スあたりか? さて、冬月さんは何を選ぶのかな?
「冬月さん、何を見たいのかもう決めてるの?」
「うーん」
 そう言って、冬月さんはポスターを見回している。
 少し考えて気づいたのだが、上映開始時間から逆算して決めた方がいいの
ではないかと。途中から見ても話がわからないのではないか。
「上映時間から決めたらいいんじゃない? 途中から見てもわからんだろう
?」
「うん」
 そうやって冬月さんは言い、一つのポスターに視線を固定する。それはこ
ともあろうか恋愛ものだった。なるほど、十時から始まるから、並んで時間
を消費しても開始まで間に合うといったところか。
 なんか冬月さんと恋愛ものの映画を見るところを想像すると、とてもいた
たまれないというか、激しく顔から火が出そうな気持ちになるのが容易に想
像できた。意識のしすぎかもしれないが。案外相手は何も思ってないかもし
れない。でもここは、冬月さんのあれを尊重すべきだろう。俺が金出すんじ
ゃないしね。
「冬月さん、これにする?」
 俺はポスターのほうを声で指して言う。
「うん」
 冬月さんは、少し子供みたいに微笑んでいた。ふと、俺は愛らしいと思っ
た。
 その後、俺たち二人は行列に並ぶ。行列には見事に若い人しかいなかった。
せっかちな性格ゆえか、延々と待つかのように思ってしまう。待つのは苦手
なのだ。
 しばらく待っていたら、やっと窓口の番が回って来た。大人二枚と告げる。
俺は財布に手を伸ばさなかった。なぜなら、冬月さんがすでに財布を出して
いたからだ。さっき立川に会った以上、再びクラスの人と会わないか、内心
警戒していた。きょどっていたと言ってもいいかもしれない。
 警戒のアンテナの張りつつ、買ったチケットを持って指定のスクリーン三