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白にんじん
白にんじん
novelistID. 46309
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冬月さんと、祝福の世界のもとで

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で、日常の風景となっていた。
 でも、これが日常の風景ってないよな。クラスの同級生と一緒に住んでる
んだよな。これが非日常でなくてなんだというんだ? しかも世界の終焉と
来ている。
 そういえば、今週の土日には、二乃宮さんに買い物を頼まれていたのだっ
た。それに冬月さんも誘いたい気がする。でもこれはデートとかそういうの
じゃなくて、たんなる食料品の補充の手伝いだ。それは同居人としての務めで
あり、大袈裟に言えば任務だ。一線を自分の中で引いておきたい。でもこの
一線はいつまでもつのであろうか? 近くにいればだんだんいとおしく思う
ようになるのかもしれない。
 この日の夜、俺は寝る前に冬月さんの部屋をノックする。
「ちょっといいかい?」
「どうしたの?」
 冬月さんは犬が首をかしげるような仕草であった。
 俺は買い物に誘うのに妙に緊張した。なぜなら今まで、女と一緒に買い物
に行くなんて事はなかったから。二乃宮さんとすら行ったことがない。いや、
二乃宮さんを引用するのは間違っているかもしれないが。
「あー、うーん、なんだろう」
 緊張しすぎて用件を伝えられなかった。
「買い物か何か?」
 冬月さんは妙に察しがよいな。それが恐ろしくもある。
「そう、そうだな、土日に買い物に行かなくてはならないんだ。二乃宮さん
に頼まれているんだ」
「私と一緒に行きたいってこと? お誘い?」
 俺は冬月さんのその言葉に、恥ずかしさのあまり、胸が詰まってしまうか
のような思いだった。いや、本当に詰まっていたのかもしれない。
「う、うん。というか、買い物の手伝い的な」
 恥ずかしさやら何やらで、俺は言葉少なくうなだれるしかなかった。
「うん、わかった」
 そうやって言う冬月さんの顔はほんのり赤くなっていた。その様子を見て
俺は少し安堵する。少なくとも拒絶されはしなかった。
「じゃあ今週の土曜日にしよう。午前中のほうがいいか? それとも午後の
ほうがいい?」
「私は午前中の方がいい」
「そうだな、午前中にしよう。スーパーは近くのところに行くつもりだ」
「いや、少し離れるけど向こうの方に行きたい」
 おいおい、そこはいわゆるショッピングモールでスーパーとは少し違う気
がするんだが……。
「そこはスーパー以外にもテナントが入ってるけど、なにか見たいものでも
あるの?」
「まあ少し色々と」
「そうか……まあどうせ俺はいつも暇だしどこにいってもいいけどね。バス
で行こう。自転車では荷物が面倒なんだよね。でもバスで入ったことがない
けどなんとかなるだろう。おやすみ」
「おやすみなさい」
 そう言い、俺は自分の部屋に戻る。冬月さんにおやすみって言っておやす
みなさいって返され、妙に和んだ。今日は木曜日だから土曜日などはすぐ
である。冬月さんはどんな服で来るんだろうなんて考えたら妙に寝付きが悪
くて困った。だってただのスーパーならともかく、ショッピングモールに行
くとかどんな御都合主義だよ。御都合主義も自分の身に降りかかるとハッピ
ーではなく疑心に変わる。
 次の日、立川から雰囲気が妙に緩んでいると指摘された。俺はなんでもな
いと答えておいたが、どうやら他人から見るとそう見えるらしい。他人が見
てそうならやはりそうなのだろう。今日も当然ながら美術部に行くという選
択肢は俺にはなかった。立川は行ったようだ。律儀な奴め。
 金曜日の夜は案外緊張するのではないかと思ったが、そうではなかった。
むしろ期待のほうが大きかったかもしれない。でも期待をすればするほど、
裏切られた時の落差に泣くことはこの歳になればわかってしまうもんだ。
 そしていよいよ来た、土曜日の朝。相変わらず味噌汁はあった。そう言え
ばバスの時間は結局調べずじまいだった。でもあの路線なら最低でも二十分
単位で来るので心配はいらないはずだ。
 冬月さんはスカートのところの長さが少し短め丈な、淡い色のワンピース
を着ていた。それが華奢な身体と少し大きい胸をを妙に引き立てていて、年
相応の少女性を強調していた。制服のセーラー服もよいが、これはこれでか
なり良かった。いかん、あまり見てはいけない。そういう目でみてはいかん……。
「なに、服ヘンだった?」
 冬月さんは俺の内心も知らずに言う。
「いや、別に、なんともない。早速行こうか」
 俺は内心の動揺を気取られないように、そそくさと発言する。俺はそう言
い、先陣を切って階段を降りる。冬月さんもついてくる。
 二階には二乃宮さんも合沢さんもいなかった。仕事中なのであろう。
 そのままの勢いで一階まで下りて、バス停を目指す。バス停まで歩いて十
五分といったところではないか。あまり乗ったことがないから分からないが。
ショッピングモールのバス停まで概ね十五分から二十分ぐらいのはずだ。
 俺達二人は、バス停まで歩き出す。何も知らない人から見れば、俺達二人
は恋人に見えるのかもしれない。でも決定的に違うのは、会話らしい会話が
ないことだ。本当に相手のことが好きならば、何かしら会話が生まれるので
はないだろうか? それがないということは、俺が冬月さんを見てかわいい
と思うのは、ただ単に欲望の対象としか捉えてないということにならないだ
ろうか? そんな自分を苦々しく、そして少し恥ずかしく思った。難しく考
え過ぎなのだろうか。
 冬月さんの方を見てみる。冬月さんは何を思っているのか、俯き加減だっ
た。俺と一緒に歩き、一体何を思うのだろう。
「バスちょうどいいのがあるといいな」
 俺は少しつぶやく。
「そうだね」
 そうやって冬月さんは返す。でもそこに否定的なニュアンスはなく、俺は
少しの安堵と一体感を覚える。
 冬月さんは俺の後ろではなく、並んでついて来た。
 そうやって歩き続けると、バス停に着いた。早速時刻表を見てみる。他に
乗客とおぼしき人はいなかった。休日なのに少し謎に思った。でもクラスの
人と会っても困るし、丁度いいといったところではないかと思わないでもな
い。
「今九時だから……ちょうど五分後に来るな」
「うん」
 冬月さんはそう穏やかで、優しい声だった。それが空間に染みわたるよう
だった。それが俺にはうれしかった。
「昼は回転寿司に行こう」
「随分と余計なお金があるのね?」
 冬月さんは笑いながら言う。
「嘘だけど」
 俺もつられて笑った。
「でも昼はどこかで調達しなければ無いのは本当だ。昼の分はいつも作って
もらってないんだ」
「じゃあフードコートかどこか、店で食べたらいい」
 冬月さんの方からそう自然に言ってもらって、妙な気を回さなくてすんだ。
「あー、そうしよう」
 幸いにして、手持ちの軍資金は十分である。今日の天気はは少し曇り気味
だったが、雨が降るほどのことはない。だから傘は持ってきていない。これ
ぐらいのほうが個人的には過ごしやすい。暑いのは苦手だ。路傍ではきれい
な雑草が生えていた。気を良くした俺は、それにすら意味を見出そうとして
いた。
 多分路傍に咲く雑草に、大局観的な意味は無い。それと同じように、人間
すら大局観的には意味が無い、空の存在なのかもしれない。だからこそ、そ
れに意味を見出そうとするのかもしれない。