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白にんじん
白にんじん
novelistID. 46309
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冬月さんと、祝福の世界のもとで

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へ向かう。途中に飲み物はいるかと冬月さんに聞いた。アイスコーヒーがい
いと言うので、俺もアイスコーヒーが飲みたくなってきた。飲み物代ぐらい
は俺が出したい。
「後で飲み物買ってくるよ」
「うん、ありがとう」
 指定のスクリーン三まで行き、重い扉を開けると、人はそこそこいた。と
いうか結構混んでるじゃないか。冬月さんの方を見ると、前の方には行かず
に、近くの後ろの方の通路側に座った。俺も隣に座ることにする。
「アイスコーヒー買ってくるから」
 俺はそう言い、飲み物を売っているコーナーまで歩く。さすがに二人で映
画見てるところを見られたら、誤解は必須であるので気配を消し、ステルス
的な何かで乗り切る以外ない。
 映画館の中のコーヒーは高くて何だか詐欺的ですら思うけど、仕方なく二
つ買い、両手に持ち気づく。両手が塞がって扉が開けられない。
 そんな感じで困ってると、冬月さんがこっちに向かってきた。察してくれ
たのか?
「手、一杯いっぱでしょ」
 そう言い、自分の分だけ俺の手から取った。そうやって言う冬月さんは、
少し柔らかに微笑んでいた。
「あ、ありがとう」
 そして俺達二人は元の席に行く。
 映画が始まるまでまだ少し時間があった。その間、俺は話しだした。
「考えても見れば、親父の単身赴任がきっかけであそこの漫画喫茶をすみか
にしたのもつかの間、クラスメイトが転がり込んでくるなんてそれこそ映画
だよな」
 何で俺はそんなことを話しだしたんだろう。暗がりの中で気が緩んだから
かもしれない。
「映画じゃなくて、真実よ」
 そうやって冬月さんはクスクスといった感じで笑う。冬月さんもくだけて
きたな。そこには阿吽の呼吸のようなものがあった気がする。
 二人の間に漂う、不思議な安心感を感じると、リラックスしてきたせいか
眠くなってきた。アイスコーヒーを飲んでも眠気には対抗できてないようだ。
「なんか眠くなってきたな。まだ始まってすらないのに」
「あと五分で始まる」
「うん……」
 俺は眠いせいで力なく答える。でも耐えられないかもしれない。意識の水
準が下がってゆくのがわかる。次第に周りの風景と自分が切り離されていく
ようだ。
 でも何となくここで寝たら冬月さんがどこかに行ってしまいそうな気がし
た。そのせいで覚醒と睡眠による無意識の間をウロウロしていた。外から見
れば寝ていると思われるだろうが、中身は必死で少し起きていた。そのせい
で上映が始まった映画は眼の網膜を通って認識できていたが、体系だった動
画としては認識出来ずに光としての認識に留まった。
「冬月さん、どこにも行かないでくれ」
 俺は眠気による意識水準の低下から、半ばうわ言のように呟く。冷静に考
えればとてつもなく意味不明で完全に恥ずかしいセリフだが。
「うん、どこにもいかない」
 そんな冬月さんの、今にも溶けそうな甘い雪のような言葉が俺の耳を貫い
た。その言葉に俺はすっかり安心してしまい、意識は遠のいていく。
 俺は深くもなければ浅くもない眠りに落ちた。そこで俺は夢を見た。そこ
はいつも行っている学校で、ふと気づいたら俺は教室にいた。周りを見回す
と、俺と冬月さん以外誰もいなかった。ふと冬月さんは教室から走って逃げ
た。何から? 俺は必死で追いかける。授業は? ここはどこの教室? そ
んなことは頭になかった。冬月さんは肩で切りそろえられた髪を振り乱しな
がら走る。
「冬月さん、待って」
 俺は叫べども冬月さんが止まる気配はない。でも俺は構わずに叫び続ける。
 俺達は階段をどんどんと降りてゆく。そこで初めてここは上の階なんだっ
て気づいた。
 逃げる冬月さんと追う俺の距離は中々詰まらない。きっと俺の足が遅いせ
いだ。そこまで夢の中は再現されているらしい。しかしどこまで逃げる気だ。
気づけば校舎の外まで出てしまった。出てわかったのだが、ここは美術室が
ある特別棟らしい。そういえば最初にいた教室は美術室のような気がする。
冬月さんは減速する気配を見せずに、運動場の方向へ行く。走りながら、ふ
と運動場にも人はいないのだろうかと思った。
 そこで俺の意識は変容した。周りの光景が段々滲んでいき、自分と世界が
引き離されていく。世界と自分の距離が無限大に離れていた刹那、頬に柔ら
かな感触があった。
 目を覚ますと、冬月さんが俺の頬を指で突っついていた。
「あ……」
 モヤモヤとする頭で、俺は何となくそう感想を口から漏らす。
「うん……もうすぐ映画終わり」
 冬月さんはそうやって返す。
「あっそうか」
 そうやって短い会話を繰り返す中で、頭は少しづつスッキリとしてきた。
氷が溶けきって、全てが液体となった薄いアイスコーヒーに手を伸ばす。そ
れはあまり味がしなくて、これなら水のほうがまだましだ。
 それからものの十分ぐらいったったら映画は終わった。起きてからは真面
目に見たが、最後の方だけ見ても話はわかったようなわからなかったような
ものだった。人の金で見たのに何だけど、あんまり面白くなかった。冬月さ
んはこういう映画が好きなのだろうか、と思ってしまった。
 少し腹が減ってきたなあと思ったがたぶん今は昼だからだろう。映画は終
わりなので席を立つ人もちらほらいた。
 冬月さんの様子をうかがうと、本編が終わったせいか席を立っていた。そ
れを見た俺も席を立つ。
「映画はどうだった?」
「うん、まあまあ」
 どこがまあまあなのか詳しく聞きたくなったが、ろくに見てない俺が聞い
ても話が噛み合わなそうなのでやめておく。でも横顔は満足そうだったので
よいのだ、多分。
「昼はどこで食べたらいいと思う?」
 俺は冬月さんに聞いてみる。
「私はね、あそこの店がいい」
 映画館から出ながら冬月さんは話す。そこそこ値が張りそうな場所だ。で
もたまにはそういうのもよいかもしれない。いつもハンバーガーでは心がア
メリカナイズされてしまう。
「ああいう店って入ったことがないんだよなー、何が食えるものなの?」
「パスタとか色々とね」
「外でそういう小洒落たものは食ったことねえな……初めてだな。未体験
ゾーンだよ」
 俺はそう、感慨じみた調子で言った。それを聞いて、冬月さんはおかしそ
うに少し笑った。その様子を見た俺は自分で自分のことがおかしくなってき
た気分だ。
 映画館から出ると行列は少なくなっていた。時間が時間だからだろう。冬
月さんは例の店に照準がロックオン状態なのでついていく。
 冬月さんが指し示す店の前まで来ると、中を覗きこみ確認する。昼間なの
で席が一杯なのではないかと心配したけど、まだ座れそうだ。ちょうど奥の
席が空いていた。冬月さんがぐいぐい歩いて行く。腹がへっていたのか? 
その店は少し光量的な意味で暗めな気もするけど、なんだか落ち着いた雰囲
気を醸し出してた。メニューに漂うオシャレ臭が半端無い。恐らく想定して
いる客層も若い男女なのではないか。こういう所で映画の感想を語り合う若
い二人……絵になるな。残念ながら映画を見ずに寝落ち状態なので語るに至
らない。
 結構値段は高め、だと思う。まあテナント料も込みですし仕方がない。何