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白にんじん
白にんじん
novelistID. 46309
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冬月さんと、祝福の世界のもとで

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「おいおい、学校が終わってないなんて自分が言えるクチなのか? ちなみ
に今昼休みな。サボり魔な君とは致命的に違うのだよ。分かる?」
「あー、なんにもわかんないです」
「うんうん、いつかわかる日が来るよ」
 この人はいつもこうだ。このけむにまくというか、何というか、わけのわ
からなさはこの人ならではである。突っ込んだら負けかもしれない。
「何の用ですか?」
「何だと思う?」
 御厨姉の声は、まるでワクワクしているかのように上ずっていた。その調
子に俺は恐ろしいというか、不安になってきていけない。
「厄介事は駄目ですよ」
「細かいことは置いといて、今から学校来なよ」
 御厨姉は楽しそうな声だった。俺はあまり楽しくはない。
「今からですか……もう昼じゃないですか、どんな顔していけと言うんです
か?」
「いや、平然としていればいいんだ。レンきゅんはさ、難しく考え過ぎなん
だよね」
 ちなみにレンきゅんというのは、俺のことである。蓮介だから頭文字を取
ったに違いない。
 行くか行かないか。答えは二つに一つしかない。でもなー、何だか嫌な予
感しかしない。
「何だか嫌な予感がしますね。何か起こったんですか?」
「いやさぁ、ちょっとした頼み事があってね。電話では駄目だな」
 そうやって言う御厨姉は御機嫌だった。
「はぁ……どんなご用事なんですかね」
「放課後でいいから来てよ」
 どんなご用事かは、電話では言う気は無いらしい。
「なんか、ますますハードルが上がってる気がするんですけど……いいです
よ、今から行きますよ」
「レンきゅんならそう言ってくれると思ってたよ。放課後、美術室で」
 そうやって電話は切れた。御厨姉の電話一本で、俺の今後の行動は決まっ
てしまった。今何時だろうと携帯電話の時計を見ると、十二時半といったと
ころだ。今から全力で自転車を漕げば、学校までは多分三十分はかからない
程だ。
 なんらかんら言って結局行くと重い腰を上げて決意したからには、早く行
かないと昼休みを過ぎてしまう。元々十二時半プラス三十分イコール一時と
いう計算でギリギリなのだ。すっかり電話中に冷めてしまったうどんの残り
を食べ終えて、個室ブースを出る。
「え、何、行くの? 学校?」
 二乃宮さんの瞠目に目もくれず、俺の自宅兼ここの事務所の三階へと行く
ために、従業員の詰所に直行する。三階への階段は詰所のしか使えないのだ。
 詰所には合沢さんがいた。俺は従業員で顔を知ってる人といえば、合沢さ
んと二乃宮さんしかいない。
「やっほー、どこ行くの?」
 合沢さんはそうやって、ものすごい軽い感じで俺に言ってきた。きっと何
も考えていないに違いない。こんなことを考えるのもかなり失礼だとは思う
が。
 合沢さん。例によって過去は知らない。二乃宮さんと同じ年ぐらいだと思
われる。合沢さんの過去は、二乃宮さんほど知らない。もしかしたら叔父さ
んなら何か知っているのかもしれないが、別に気にならないので聞いたこと
がない。
「学校に行くんです、今から」
 俺は適当に答え、そのまま早歩きで階段を登る。合沢さんは何も言わなか
った。
 三階は元々、何かのテナントだったが、漫画喫茶を作った時点で既に出て
しまっていてがらんどうだった。それを改装して人が住めるようにした。多
分叔父さん自身が住むつもりだったのかもしれない。
 親父とは中学を卒業してから連絡は特にとってない。叔父さんが適当にそ
こらへんはしている感があるので、それはそれでいいかもしれない。
 親父の単身赴任が、高校に入ってすぐだった。それがきっかけで、別々に
住む事になった。せっかく入学したのに、すぐに転校するのも面倒だと思っ
たし、親父とは折り合いが悪い。
 小学校高学年の頃に母親が亡くなってから、親父と暮らしていたが、昔か
ら仕事で家庭のことをあまり顧みなかった親父は、あまり俺に構うことがな
かったせいか、二人だとギクシャクしていた。
 実の親にこんなことを考えるのは、やはり親不孝なことであり、そういっ
た意味では俺は罪人なのだろうか。
 人間はみなすべからく罪人だと思う、極論だけど。だって、食事という形
で動植物の命を奪って生きているからだ。そんなことを言うと何も食べられ
なくなるし、生きていけない。
 もう無駄な事を考えるのをやめ、階段を踏みしめ、三階へと辿り着く。
 三階は改装されており、普通の部屋になっている。台所、トイレ、風呂、
電気、水道も完備で全く問題ない。
 何しろ時間が迫っていることなので、さっさと制服に着替え、カバンに
教科書を入れ、自転車の鍵を確認し、今来た階段を降りて二階へと行く。
「いってらっしゃーい」
 そうやって、合沢さんはどこか気が抜けた炭酸水のような声を俺に投げか
けた。俺は手を上げて返答とした。
 一階へと、若干慌ただしく下りて自転車置き場へ行き、すぐに自転車に乗
り込み、携帯で時間を確認する。十二時半過ぎといったところで、まだ大丈
夫なので少し安心した。自転車に乗り、学校を目指す。
 昼下がりの道路は妙に空いていて、歩行者も少ない気がした。一瞬、何か
違和感を感じたが、それは普通朝登校するものであって昼登校する事は無い
からだと思う。何か世界と俺が分断されて孤独な気分になる。
 分断、か。変なことを言えば、もともと世界と自分というのは分断されて
いるものなのだ。それは俺が思っているだけかもしれないけど。世界という
のは透明で不確かなのだ。その不確かなものにしがみついているにすぎない
と思う。
 道端で雑草が咲き乱れている。空は快晴で、太陽光がまともに降り注いで
くる。今までずっと室内にいたせいか、それともこれから起こる厄介事に気
後れしているのか、軽くクラクラする。
 自転車をしばらく漕いでいるが、当然というべきか学生とはすれ違わなか
った。それに内心苦笑してしまった。
 そのうちに学校に着き、自転車置き場へ向かい、自転車を置く。
 俺のクラスである一年七組は、第二校舎の三階にある。
 携帯で時間を見やると、十二時五十分といったところだ。まだちらほら廊
下や校舎の周りに生徒がいる。
 早速、第二校舎へと向かう。自転車置き場近くの階段を登って行くと、や
がて一人の女子生徒が向こうから来た、降りてくるようだ。
 向こうは俺に向かって右側だったので、俺は向かって左側に移動した。
 相手の顔をちらりと見た。どこかで見た顔だった。それもそのはず。同じ
クラスの冬月なんとかさんだった。下の名前まで覚えていない。それは俺が
非情とかじゃなくて、人の顔を覚えたりするのが単に苦手だからだ。
 冬月さんは髪は肩で切りそろえられており、黒髪で背は中ぐらいだ。やや
気だるそうな雰囲気を持ってて、話しかけづらい感じはする。それは俺がそ
う思ってるだけかもしれないけど。でも、あまり人と話している場面を見な
い気がする。
 俺も向こうも階段を進んでいる以上、段々と距離が詰まってくる。変な感
覚が手から入って背中に溜まっていく。何かが変だと直感があった。
 俺と冬月さんの距離が殆どゼロ、つまりすれ違う直前に、妙に緊張して時