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白にんじん
白にんじん
novelistID. 46309
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冬月さんと、祝福の世界のもとで

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頼めばいいのかよくわからん……冬月さんと同じものを頼むことにする。傍
から見れば不自然極まりないけど。
 俺はそう思い、冬月さんは何を頼むのかだろうかと思い、視線を移すとも
のすごくうんうん唸って考えてた。その時、不意に声を掛けられた。
「よう、二人とも仲いいじゃねえか、おい。デートか?」
 その声の主は、御厨姉であった。
「先輩じゃないですか」
 俺は少し驚いた。今日は知り合いに会いすぎだろ……。ここで休日を過ご
すのが流行なのか?
 先輩のほうを見ると、連れはいないようだ。一人なのか。
「先輩こそ一人で何してんですか?」
「何って、映画見てたんだよ。帰りに食べて帰ろうと思ってたら丁度お前ら
がいたんだよ」
 そうやって御厨姉は言いながら、俺の横に座った。
 二人に囲まれ、妙に緊張して机の上の水に手を伸ばす。その水は微かにレ
モンの味がした。
「お前ら、何頼むの?」
 御厨姉は俺たち二人に向かって言う。
「俺は冬月さんと同じもの」
「私は魚介類のパスタ」
「じゃあ俺もそれにする」
「主体性のないやつだな。あたしはグラタンにするよ」
 そう言い、御厨姉は笑う。俺は店員を呼び、注文を伝える。
「お前ら、もう付き合いだしたのか?」
 そう、御厨姉はニヤリと笑いながら言った。俺は水を飲んでいたので水が
逆流しそうになった。
「付き合うなんてそんな」
 俺はすぐに言う。そこで気づいて、冬月さんのほうを見ると下を向いてい
て恥ずかしそうにしていた。
「まああたしが言わなくても、そのうちそうなるだろうから何も心配してな
いさ。全てはあたしの予想通りさ」
「先輩何言ってるんすか……」
「さあな。何を言ってるんだろうな」
 そうやって肩をすくめながら御厨姉は言う。
「失礼します」
 突っ込もうとすると、店員が注文の物を持ってきたのでその機会は失われ
た。
「あー来た来た。いただきまーす」
 御厨姉のそういう掛け声に、俺達二人は同調する。
「いただきます」
「頂きます」
「先輩は、人間誰しも罪人だと思いますか?」
 俺はいつか冬月さんと会話した時のことを思い出し、御厨姉に訊く。
「きれいな人間がどこにいるというんだ? 逆に言えば、罪にまみれている
からこそ世の中は美しいんだとは思わんかね?」
「美しい……ですか?」
「罪にまみれているのが真実の姿さ」
 御厨姉の言うことに妙に頷いてしまう。
「世界は本当に終わるんですか? その様子はないようですけど」
 畳み掛けるように俺は訊く。
「終わるさ」
 そうやって言う、御厨姉の言い方は妙に自信ありげだった。やはり本当な
のだろうか。
 段々と皿に盛られた料理の量は減っていく。
 一足先に御厨姉は食べ終わった。
「じゃあ、後は二人で宜しくやってくれたまえ」
 そう言い残し、御厨姉は自分の分の伝票を持ち出て行った。
 俺達が食べ終わるのはほぼ同時だった。
「服、見に行くんだろ? 俺本屋に行ってるから。そうだな。待ち合わせを
した方がいいか?」
「うん」
「じゃあ二時に自販機コーナーで待ってる」
「わかった」
 俺達は店を出て、下りのエスカレーターに乗る。本屋は一階で自販機コー
ナーも一階だ。服を見に行くと行ってもいったい何階に行く気だろうか。
「服は何階に見に行くの?」
「一階」
「本屋と同じだな……」
 そう呟く。エスカレーターを降りた後、俺達は暫し別行動でバラバラにな
る。
 俺はこう見えても本好きなので、一時間と少し本屋で時間を潰すなど造作
も無いことだ。まさか本屋でも知った人に会うとかないよなって思ってしま
う。
 本屋では漫画の新刊を主にチェックしたけど、金に余裕はないので買うの
は止めておく。それが終わったら、一般文芸のコーナーへ行く。
 色々見ては見たものの、食指が動くようなものはなかった。周りをキョロ
キョロするが知った人はどこにもいなくて、心のどこかで安堵する。
 次は月刊誌のコーナーに行く。オーディオ雑誌をパラパラと見るが、高い
ものばかり特集してあってあまり参考にはならない。たまに使える付録があ
ったりもするが。
 こうしているうちに携帯を取り出して時間を確認する。後二十分ぐらいあ
るけど、見たい本は無くなったし、冬月さんが早く来ている可能性もあるか
ら自販機コーナーへ向かい歩き出す。
 そうした予感を裏切らず、冬月さんはもう来ていて、座って待っていた。
服を見た割りには、何も買っていないようだ。まあ買うとは一言も言って
ないし。
「あ、早かったね、もしかして待たせた?」
「うんうん」
 冬月さんはそう答え、首を振った。
「二乃宮さんに頼まれてる食料品を買いに行って終わりだ。食料品を売って
るところは一階の向こうでいいんだよな?」
 俺はそう言い、俺達は食料品を売っているところまで歩く。カバンに二乃
宮さんが書いたメモが有ることを手でまさぐって確かめる。
 そのうちに食料品を売っているところまで到着した。並みのスーパーより
も品揃えは豊富だ。このへんでは一二を争う大きさではないか?
 買い物カゴを持ちながら、メモに倣い品物を入れていく。いつものスーパ
ーとは物がおいている場所が違うのでウロウロしても仕方がない。
 冬月さんは俺の横にずっとくっついていた。その姿は、ただ可憐でいじら
しく、まるで穏やかな時間が流れているかのようだった。
 メモのものは全てかごに入れたので、レジに向かい、代金を支払って袋に
詰める。黙って袋に詰めていたら、冬月さんも手伝ってくれた。
 もう用はすんだので、バス停で帰りのバスを待つだけだ。俺達二人はバス
停まで歩いて行く。バス停に着き、周りを見回すと六人ほどいた。
「バスちょうどいいのはあるかな?」
「あと十分弱」
 冬月さんはバスの時刻表を覗き込み、そう言う。なんか今日は久しぶりに
充実感あふれる休日を過ごしたような気がする。
「蓮介くんは今日楽しかった?」
 そうやって冬月さんは、バスが来るまでの間訊いてきた。
「なんか楽しいというか充実感があったなあ」
 俺はそう素直に感想を漏らすと、冬月さんは安心したかの表情を見せ、俺
はホッとする。
 バスが来て乗り込むが、割りと混んでいた。来る時とは反対だ。来た時は
緊張したが、帰りはそれがなく気楽なもんだ。ふと一仕事終えた感覚から居
眠りしそうだが、立ってるのにそれは出来そうにない。
 バス停から帰るまで歩き、帰ってからは冷蔵庫に買ってきた食料品を詰め
込み、それからはいつもの様に、パソコンをいじって過ごした。冬月さんは
休日何をして過ごすのだろう。
 俺の方といえば、次の日の日曜日はずっと漫画喫茶の方で漫画を読んでダ
ラダラと過ごしていた。休日はなにもしないのが正義だ。それで学生たるも
の良いのか悪いのかは不明である。
 そう言えば、物干し竿に干してある冬月さんの制服を見て内心ドキドキし
てしまったのは秘密だ。