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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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星よりも儚い 神末家綺談1

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それは星よりも儚い



何だろう、ふわふわする。ぼんやりする頭が少しずつ覚醒する感覚。

「・・・瑞?」

虫の声、星月夜。夏の夜の匂いと、大きく硬い背中の感触。瑞に負ぶわれているのだと、伊吹はようやく気づく。

「あれ・・・俺どうなったの・・・」
「ブッ倒れたのー」

そうだ、奥沢へ行って、そこで闇の中の何かと対峙したのだ。体中が硬直したことを思い出す。ねっとりと絡みつく闇の気配。あれは一体なんだったのだろう。思い出すとぞっとする。思わず瑞の肩を掴む手に力がこもった。

「朋尋は大丈夫なの?」
「送って行ったよ。あいつにもいい薬になったンじゃないの」

伊吹は、瑞のぞんざいで軽薄な口調にほっとする。いつもの瑞だ。先ほど聞いた声とは違う。あの、静かな水面のような、感情のない冷たい声が、いまも伊吹の耳に残っている。ひとを小ばかにしたようなこの口の聞き方に、安堵を覚えるなんて。

「・・・さっき、水辺にいたのは・・・?」
「あそこに住んでるやつだ」
「おばけ、とか・・・?」
「おばけだって?かわいいこと言うねえ」

意地悪く笑う瑞にむっとしながらも、伊吹は言葉を待つ。あの気配、感覚、生きた人間のものとは思えないのだが。

「あれはおばけとか幽霊とか、そういう概念のものじゃないンだ。夜に住むものとしか言えん。おばけというよりも、神様や妖怪に近いものかもな」

夜に住む者・・・。

「生きる領域というのが決まっている。この世に存在するものには必ず。そこを侵してはいけない。穂積がよく言っている」
虫の声が遠くなる。背中に響く声を、伊吹は真剣に聞いた。聞き逃してはいけないことを言っている、そんな気がしたから。

「おまえとあいつ、あちらとこちら、死者と生者、彼岸と此岸・・・そこには明確な線引きがしてあるんだ。立ち入ってはいけない。互いにね。この村はお役目のまじないで、山や川に住まう者と、村に住む者との境界線がしっかり引かれている」

それが穂積の仕事なのだ。互いが決して干渉しないよう。干渉によって互いの利益が、生活が、損なわれることがないよう。