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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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星よりも儚い 神末家綺談1

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(なんだろう・・・)

伊吹は、雑木林に入ってから奇妙な感覚に囚われていた。そわそわと落ち着かない気分になるのは、暗闇から視線のような気配を感じるからだ。それも、複数の。
ざわざわと木が鳴いている。この真夏なのに、暑さをまったく感じていないことに、伊吹はようやく気づく。

「ほら、沢だ。蛍を見にきたんだろう?」

瑞が立ち止まり、笑った。そこは確かに、以前祖母と穂積と蛍狩りにきた場所だ。あの夜、蛍は飛び交い幻想的な光景だったはずなのに。伊吹は懐中電灯を消してあたりを見渡す。

「蛍・・・いない」

漆黒の闇が、べったりと視界を塗りつくしているだけだ。

ふう、と風が吹いた。生ぬるい風。ぞわっと体中の毛穴が開く感覚に、伊吹は息を呑む。

「・・・なにか、」

いる。目の前の沢に、何かの気配を感じる。

「瑞、朋尋・・・?」

世界が一変し、闇の中に伊吹は一人で佇んでいる。目の前の何かと対峙し、指先一本動かすことかなわない。重苦しい暗闇がのしかかってくる。微動だにしない目の前の気配。叫びだしたい衝動に駆られても、声はきっと出ないだろう。伊吹は身体の自由を失い、無限とも思える時間を立ち尽くす。どうしよう、怖い。このまま闇にのまれてしまう。