星よりも儚い 神末家綺談1
夜のなか
いつもはチャラチャラしているくせに、瑞は時折ひとが変わったような表情を浮かべることがある。ひとをからかってばかにしているときとは違う。まるで非難するかのような嘲笑を浮かべることがある。そんなときは、いつも間延びしたような口調が、突然老成したものに変わる。いまも、そうだ。
(俺に対して、だけ・・・そういう顔を見せる)
伊吹は、先を行く瑞の背中を見ながら考える。
家族でもない、兄弟でもない、他人に等しいがずっと一緒に暮らしている。長い時間をともにしていても相容れないのは、壁を感じるからだ。
(瑞は・・・たぶん俺を嫌いなんだ)
そんな気がする。さっき自分に向けられたのは、穂積の跡継ぎであることが許せないとでもいいたげな表情だった。
「蛍を見に行くんだよな・・・?」
隣で朋尋が囁いた。好奇心と不安とが交じり合った声だ。普段はクールで度胸もある幼馴染が、夜と瑞の雰囲気にのまれているらしい。
「そのはず・・・だったんだけど」
奥沢は、村のはずれの雑木林の中にある。山からの清流のそばでは、蛍が飛び交う様子を見ることができる。
雑木林には、星の光は届かない。漆黒の闇の中を、瑞はどんどん歩いていく。まるで行き先が見えているように。立ちはだかる木々や草むらをものともせずに。伊吹たちは持参した懐中電灯を使い、瑞の早足についていくのがやっとだった。
作品名:星よりも儚い 神末家綺談1 作家名:ひなた眞白