民生委員談話
5) 民生委員の資質
特別な事態が起こらない限り民生委員の資質が問われることはない。適任者たる者が滅多にいない現状にあっては普通の人であればそれでよしとせざるを得ない事情がある。問題があるとすればこの普通の人としての資質かもしれない。
一般に普通人と言われてもその資質は各人各様である。民生委員に向かない普通人がいたとしても委員選定の過程で弾かれることはない。つまり資格試験に合格した者だけが選ばれるというシステムではないので民生委員合格のボーダーラインはかなり低いと思われる。そこで委員選出後は資質(人格と識見)向上のためにあらゆる機会を通して研修が行われる。
しかし、いくら研修会や勉強会を重ねても専門家になれるわけではない。ソーシャルワーカー等の仕事の内容が分かったとしてもその役割を担うことはできないし、安易に関わると引責の危険を伴うことになるので注意を要する。
そこでクライアントからの要求に対して二次的解決を図るためにその支援をケースワーカー等に委ねることになるが、専門家の絶対数の保証がなければ行き場を失ってしまう。民生委員がこの種の資格を取る場合にはそれ相応の補助が受けられる制度が必要になるだろう。
6) 媚薬論争
民生委員は法により無給であるが職務履行に伴う活動費は実費弁償費として個人の口座に振込まれる仕組みになっている。この実費弁償費は民生委員活動に限らず他の組織の活動でも支払われている。例えば報酬のない会議に出席するため交通費などの実費がかかった場合、実費弁償費として個々人に対して一律に一定額が支払われる質のものである。
この実費弁償費を「媚薬」と称した法曹界の人物がいたが、媚薬とは簡単にいえば惚れ薬のことで民生委員にとって情欲ならぬ活動欲がそれによって大いに促進するかどうかは甚だ疑問である。
しかし実費弁償費があるのとないのでは月とスッポンほどの違いがあり、経済面というよりも精神的安定面で活動の支えとなっていることは間違いなさそうだ。この心理的盲点を突いたのが実費弁償費という媚薬を編み出した官僚の仕業である。
さて実費弁償費の額であるが、岐阜県では月額に換算すれば5千円足らずの額が年2回分けて個人の口座に振込まれる。算定根拠を知る由もないが額の算定にあたってはこれこそ官僚らの腕の見せ所であろう。
「これしかないでしよう」という金額になっているはずだが、この額を十分だとみなす民生委員は多くはないと思われるる。納得しているのかそれとも諦めているのか、いずれにせよあまり文句がでないところを見るとこれはまさしく媚薬と称するにふさわしい代物ではないか。
ちなみに東京都H市ではHP上で以下のようなことが書かれてあった。「民生委員・児童委員活動を推進するにあたり、活動費が民生委員・児童委員個人に支給されています。これは報酬にあたるものではなく、活動する上で必要な消耗品・通信費などの費用として月額8,600円をお支払いしています。」
あれ〜、一律5,000円弱ではなかったのか、何か引っかかるものを感じながら職務を遂行しなければならない。
作品名:民生委員談話 作家名:田 ゆう(松本久司)