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ハイクマン

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だとしてもスーツの威力はすさまじく殴られた戦闘員の体が浮くほどのパンチが簡単に出る・・・というより、一定の角度に向けて放つパンチはスーツとの相性がいいらしく、えらく威力が高い。

「この角度か?このフォームか?」

テッペイはもう早、何かを掴みかけている。ひざを使ってややゆっくりめに伸び上がるようなアッパーを打つとスーツの出力がうまく乗っかって当たった相手を高く浮かすのだ。

「ケー!ケー!!」

浮かされたほうはたまったものではない。「パンチを打っている」というより「持ち上げている」といった具合だが、軽く2階の高さまで放り上げられているようなものだ。

「わ!下がれお前ら!!俺が相手だ!!」

ブルドーザーマンが急に自分を俺と呼び出した。よほど焦っているのだろうとテッペイは考えながら、ブルドーザーマンに向き直った。

「食らえ!ブルドーザークラッシュ!!」
「卑怯だぞ!俺はまだ必殺技の名前を考えていないのに!!」

本来なら必殺技をハイクマンに教える役目の女性(高卒、職業はモデル)が敵とグルだと見破った上に、その気分を害してしまっては元も子もない。しかし、その必殺技というのは特に人体に害の無い光が出るだけのものだったので、必要かと言われればそんなことも無いのだが

「くっそ!さすがザコとは違うな!すげーパワーしてるな!!」
「あとでそれ返してください!!」

ブルドーザーマンは前面のブレードでハイクマンを弾き飛ばしながら業務連絡をした。

「いやなこった!」
「何ぃ!?」
「な・・・なんですって!?」
「ケ・・・ケェ!?」

戦闘員たちにまで動揺が走った。

「ネコババはよくないぞ!それ高いんだから!」
「その女が『ハイクマンになって!』って言ったからなったんじゃねーか。俺がずっとハイクマンやっとくよ。」
「キミ・・・そういうつもりで言ったんじゃないんだから」

ハイクマンは構えた。

「俺はハイクマン!ある日、悪の組織からハイクスーツを奪う。その日から、スーツ奪還を狙う組織からスーツを守るために・・・そして正義を守るために戦うのだ。戦えハイクマン!負けるなハイクマン!!」

ブルドーザーマン達は悔しそうだ。

「くそ!それっぽい!!」

そこへ謎の声が響く。

『ブルドーザーマン、すばらしいヒーローにめぐり合ったじゃないか。』

ブルドーザーマンは思わず直立した。

「カ・・・いや、総統閣下!!」
『無理だとは思うが奪還してみたまえ。そして、そこの女、見事に失敗してくれたな。』

「そこの女」と呼ばれた女性は名前を呼ばれなかったことに腹を立てながら「ごめんなさい」と呟いた。

『お前には戻ってきたら、特別にスーツを発注してやろう。ハイクマンスーツ奪還に協力するのだ。』

高卒、モデル(売れてない)女性の顔は急に明るくなった。

「やった!ありがとうございます!!良かった・・・1クール仕事続きそう!」
『ブルドーザーマン、ハイクスーツを奪還しろ。』
「了解しました!食らえハイクマン!ブルドーザ・・・』
「ハイクアッパー!!」

ハイクマンのもはやパンチではなく「持ち上げ攻撃」をもろに食らったブルドーザーマンはやはり3mほどの高さまでふんわりと投げ出された。

「アッ・・・高い!高ぁッ・・・」
「必殺技!重機相手に冴え返れ・・・季語あってたかな?」

ユウタにだいぶ季語を見せられたイッペイは、出来はどうあれすんなりと俳句を詠んだ。落下するブルドーザーマン、駆け寄る仲間達。

「うわ、スーツ壊れた!」
「え・・・ブルドーザーマンのスーツ壊れるって事は俺達・・・」
「馬鹿ね!撤収!撤収ゥ!!」

わたわたと帰っていった。


▽優男、予感に余寒に身震いし


カツラギは迷っていた。オフィスの大きな窓から夜の闇を見ながら、先のことを決めかねていた。

「専務、ハイクマンの第1話ですがあのままでよいのでしょうか?当初とだいぶ予定がずれましたが・・・」
「う・・・」

カツラギは迷っていた。ハイクスーツを取り返すのは簡単なのだ。なんてったってGPSがついている。謝って返してもらいにいけばいいのだ。そもそも、ヒーローとドキュメンタリーを融合した番組を作ろうとしたのが無茶だったのだろうか?ある日、一人の青年がヒーローになるお膳立てを揃えて、それを決行したら・・・本当のヒーローが生まれると思ったのだ。

「本当のヒーローが生まれると思ったんだよなぁ・・・」

しかし、そのヒーロー側に付く筈の女優(モデル、女優は初体験)が即看破され、この先に予定していた「得体の知れない博士」がヒーローをバックアップするのはきわめて難しくなった。ストーリーのコントロールは共に難しくなったといわざるをえない。ただ、この高校生の少年は捨てがたい。カツラギが必死で考えた「Haik(外套)-Man」を見事に「俳句マン」だとミスリードされてくれているし、しかも、その設定を踏襲して要所で俳句を詠んでくる。何よりもマスクのデザインが左目からは悲しみの涙、右目からは怒りの炎の二面性をあらわすと読み取っている。これはカツラギからすれば逸材だ。

「惜しい!あのモデルくずれがミスしなければ!!」

実は彼女はミスってなどいないのだ。そもそも、創作物として変身ヒーローものを考えたとき、ヒーローと悪役はどちらも同じ人間によって創作されている。その事実を突きつけられたに過ぎないのだが、仕掛けた側としては悲しすぎて飲み込めないのだろう。

「ツチノトウシさん。どう思われますか?今回の第1話を。」

ツチノトウシは汗を拭きながら慎重に答える。

「われわれの計画は半分は成功しました。ハイクマンは誕生しましたし・・・」

この「誕生しました」という言い回しはカツラギの胸を打った。「そう!そうなんだよ!」と叫びだしたい気持ちを抑えてツチノトウシの意見に耳を傾ける。

「しかし、ハイクマンとヒロインと博士によるチーム構想は崩れました。我々は今の流れに向かってハイクマンプロジェクトを修正できるかどうかを考えるべきです。」

カツラギは目を閉じていた。眉間に皺が寄るほど強く目を閉じていた。実はあまり眠れていないのも手伝って少し眼球が痛いのだ。カツラギが目指した「筋書きの無い本当のヒーロー」はもう生まれているのだ。もし、スーツを取り返したとして同じ手法で誰かがハイクマンになってくれるとは限らない。

「彼は『ハイクアッパー』と叫んでくれたんだ。」

そこへ一人の若者が入ってきた。

「カツラギさん、やめることなんてないですよ。」
「キミはウブヤシキさん?」

ブルドーザーマンとしてハイクアッパーの餌食になった青年は名前をウブヤシキという。

「戦闘員の皆さんは、今、ハイクアッパーを受身する練習をはじめています。」

カツラギは思いもかけずその一言で涙が溢れ出した。ぶわっと来た自分の涙腺にカツラギ自身も動揺したが、もっと動揺したのは秘書のツチノトウシとウブヤシキだった。

「えーっ!カツラギさん!?」
作品名:ハイクマン 作家名:スナ惡