ハイクマン
「うぶぶ・・・ゴメン・・・泣くつもりじゃなかった・・・づもりじゃなかったんだけど・・・あああ・・・ワタシ一人だけじゃん迷ってるの・・・あんなに皆でがんばった企画なのに・・・土壇場でワタシだけハートが付いていかなかったんだと思うと情けなくて・・・皆、昼間がんばったのに、もう次のためにトレーニングしてるとか聞いて・・・嬉しくて・・・」
ウブヤシキは涙もろい。すぐもらい泣きをする。大の大人が二人で肩をたたきあいながら泣いていた。しかし、ひとしきり泣くと何かを吹っ切ったようだ。
「よし!今日からワタシを総統と呼べ!1クールハイクマンのやられ役として、小癪にあがくぞ!」
どこから出したか分からないマスカレードで顔を隠すとカツラギは毅然と窓際にたった。
「カメラ!」
どこからともなくカメラクルーがやってきて、窓際に立つカツラギを撮影する。
「ハイクスーツが奪われたか・・・ブルドーザーマンの修理を急げ!ピットブル!計画は変更だ!」
そういい終わってカツラギがしばらく動かないでいると「カーット」と間延びした声が響いた。しかし、カツラギはまだ窓辺から動かない。
「・・・計画は変更だ。」
やっとそう呟くと踵を返してデスクに向かった。計画を変更するのだ。
▽帰路に着き甚だ困る春の服
「これどこに隠そう・・・」
テッペイはほとほと困り果てていた。通学かばんを外套に隠して家に帰ろうと思ったのだが、目立つ上にスーツを隠す場所が無い。夜になって黒いハイクスーツが目立たなくなったため、何とか自宅の裏からベランダによじ登り2Fの自室に入ったが、でかくて目立つ。結局クローゼットの中のものを全て出して、そこへしまいこんだが、今度はクローゼットの中のものが部屋中にあふれかえってしまい、そしてそれをしまう場所も無い。何とか無理やり部屋の隅に積み上げてみたが、親に見つかったらクローゼットにしまわれそうな気がする。
「これがヒーローの辛さか・・・」
そう呟きながらハイクスーツを眺めてみたら外套の内ポケットに充電ケーブルが入っているのを発見した。とりあえず、携帯とハイクスーツを充電してベッドにもぐりこんだ。
「俺・・・ヒーローになっちゃった!!」
寝れなかった。
▽寝れぬなり新年度を期待して
暗闇を早歩きに移動する影があった。
「・・・チャンスじゃ!千載一遇とはこういうことじゃ!!」
先ほどから何度も同じ言葉を呟きながら、暗い藪のようなところを突っ切って歩く。白衣を脱ぎ捨て、黒いハイネックで暗闇に溶け込んだ影が目指すのは、あと1kmほど先に開ける繁華街だ。そこまで出てしまえば人ごみにまぎれてどこへでもいける。行方不明に見えるよう偽装はしてきた。目の前の塀を超えてオフィス街を突っ切れば目的地の歓楽街だ。塀際で監視カメラの死角に入り込む。腕時計の針を見ながら深呼吸する。
「今じゃ!」
50過ぎた中年男性がよじ登るには辛い高さの塀だ。しかし、監視カメラに仕掛けたエラーは30秒ほどしかない。それ以上とまると怪しまれるとかんがえたのだ。よじ登りながらも腕時計に目をやると残り10秒きっていた。
「こなくそ!」
塀の向こう側に飛び降り、脱兎のように駆け出す。
「あ痛ぁ・・・足が・・・足首が・・・」
しかし、立ち止まるわけにはいかない。男性は夜の歓楽街へと消えていった。
(需要があったら続く)