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ハイクマン

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「いらしてたんですね。すいません。」
「いや、別に職場で歌を歌ってはいけないという決まりは無いですよ。」

カツラギは視線を上げずに、デスクの上に書類を堆く積んで整理している。この陰に隠れていて秘書からは見えなかったと見える。

「だいぶ時間とお金を使いましたね。」

カツラギは呟く。あと1週間もすればサクシデッド社が10チャンネルを買収して初めての番組改編となる。カツラギの手には「Haik-Man」と書かれた企画書があった。

「本物のヒーロー・・・か」


▽小春日に秘密を運んだ軽ワゴン


テッペイはその日、駅前にいた。駅前を軽ワゴンが走っているなと思っていたら、信号待ちをするテッペイの前に同じく信号待ちで停まった。そこまではなんとも無い話だが、テッペイはここで突然後ろから誰かに当たられた。そして当たった男はテッペイには目もくれずに軽トラックに向かった。奇声を挙げながらグリーンのつなぎに身を包んだ男たちがバールのようなものを手に軽ワゴンを襲撃し始めたのだ。

「えっ?えっ!?」

テッペイは何事かと考える暇も無いまま、目の前で軽ワゴンからドライバーが引きずり出される様子を見ていた。後部のスライドドアが開かれる。馬鹿でかい箱と髪の長い女性が乗っていた。

「ケー!ケー!」

緑の男たちの狙いは黒い箱のようだ。女性は髪をつかまれて車から引きずり出されようとしている。その様子を見てテッペイの何かに火がついた。女性の髪を掴んでいる男の後頭部に飛びかかりように正拳突きを食らわせて、ひるんだ隙に女性と男の間に割って入った。テッペイはこいつらが何らかの戦闘員だと理解した。目出し某に全身グリーンのいでたち。現実的ではないとわかっているが間違いは無い。

「ケー!」

軽ワゴンが急に動き出した。運転席に座った戦闘員が車を発進させたのだろう。テッペイはとっさに開きっぱなしのスライドドアから車中に飛び乗ると、女性に声をかけた。

「大丈夫ですか!?」

女性は何かを逡巡するように視線をさまよわせた後、テッペイにすがりついた。

「お願い!あいつらにこれを奪われるわけにはいかないの!あなたがこれを着て!」
「な・・・何の話ですか!」

テッペイは生まれて初めて妙齢の女性に抱きつかれた衝撃で軽く恐慌状態に陥っている。日々の生活の中では「20歳過ぎの異性は年上過ぎてピンとこないな」などと思っていた事などどこかへ吹き飛び、非常事態にもかかわらず壮大な分量の色気を発散している女性がテッペイのいつ洗ったかわからないような学生服にすがり付いて・・・テッペイを頼りにしている。この状況は異常事態だった。よく手入れされているであろう長いストレートの黒髪の頭がテッペイの鼻先数cmのところまで迫り、どんな危険な目的で作られたかわからないようなえもいわれぬシャンプーないしリンスないしコンディショナーの香りをたたえている。そして

「お願い!」

今まで黒髪のつむじだった場所に、急に顔が現れた。要は上を見上げたのだ。テッペイは上目遣いにお願い事をされてしまったのだ。テッペイは様々な出版物を通して異性に多少慣れてきていると自負してはいたが、今、それまでの想定をはるかに超えた段違いの衝撃を受けていた。

「・・・!」

運転席側を見ると、運転席と後部の貨物スペースは仕切られていて、ここには自分と「おねいさん」しかいない。そして馬鹿でかい箱が置いてある。直感的に「これだ!」と考えたテッペイは箱に手をかけた。

「これは!?」

ひと目で分かる高額そうな機械は人の入る形をしている。

「反対を向いて・・・ここにひじを!」

女性はテキパキとテッペイをその機械の中に滑り込ませていく。その女性の手にはなぜだろう、ハイクマンのそのマスクがある。

「なんで・・・ハイクマン?」

女性はその双眸に悪戯な光を帯びるとテッペイの学生服の上から一通りの装置を装着し終わったようだ。テッペイは全身の主要な間接を動力がアシストしているのを感じた。そしてこの機械はとても繊細で・・・堅い。もはやむき出しになっているのはテッペイの頭部だけだ。

「あなたはHaik-Manになる。・・・そして、あいつらを倒して。」

マスクをかぶせられて、真っ黒な外套を着せられると、もはや高校生のテッペイではなく、その場にいるのはハイクマンだった。両手を握ったり開いたりしてみると駆動音が聞こえて、空を切る自分の拳が恐ろしい握力をしていることが分かる。いつしか、軽ワゴンは停車しているようだ。

「春愁に二条の涙を流す也」

口をついて出たのはユウタと考えた俳句の一つだった。スライドドアを開けながらハイクマンは地面を踏んだ。

「ケーッ!」

テッペイは自分が分不相応な力を手に入れたと確信していた。そして、それは怒りを生んだ。

「また・・・春愁に怒る炎を宿す也」
「ほう・・・」

正面には緑の戦闘員を率いて、見るからに機械化された装甲を着込んだ者が立っていた。ハイクマンのマスクが怒りと悲しみを表していることに装着者が気づいていることに感服したのだ。しかも、この装着者は俳句まで詠んでいる。

「私の名前はブルドーザーマン。ハイクマンスーツを手に入れようとこうしてやってきたわけだが・・・いやはや。すでに君の手に落ちているとはね。」

確かにブルドーザーっぽい姿かたちをしている。あのブレードを前にして突進するのだろうか。テッペイは小さくため息をつくと軽ワゴンから女性を降ろした。そしてそのまま女性に向かって拳を振り上げる。

「うわー!!やめろ!!あっ!!」

思わずブルドーザーマンが叫んだ。テッペイはそのまま女性を抱え上げてブルドーザーマンの前へ歩み寄る。

「殴りゃしねぇよ。」

女性は思わずブルドーザーマンにすがりついた。

「なんでバレた?」

戦闘員たちも呆気にとられている。

「俺だってそれぐらいわかるよ!戦闘員もその女も全体的に怪我しないように安全に配慮しながら動いてんだもん!お前ら全員グルだよ!!ドッキリか!?いや違うな・・・俺をどうしたいんだ!?」

戦闘員たちがしきりに「ケー」と騒ぐ中ブルドーザーマンが否定した。

「いや、そんなことは無い・・・そんなことは無いぞ!グルというか・・・その・・・」

テッペイは腕組みしながらしどろもどろの様子を見ていたが不意に思い立って一言付け加えた。

「そうそう、その色気しかなくて学のなさそうな女を何で選んだ?」

これを聞いて「学のなさそうな女」が怒った。

「黙って聞いてればぁ!!お前らやっておしまい!!」
「ケーッ!!」
「絶対違う・・・絶対おかしい・・・」

首を振るブルドーザーマンを尻目に戦闘員たちはテッペイことハイクマンめがけて飛び掛った。

「お前ら・・・俺に殴られても大丈夫なの?」
「ケ!・・・ケー?」

テッペイは細かいことを考えるのはやめにした。

「まあ、何かは下に着てるんだろう。ヨイショっと。」

戦闘員が派手に吹っ飛ぶ。テッペイは次々にパンチを繰り出しながら、殴った感触から「やっぱり何か下に分厚いものを着ている」と分かって安心した。

「ケー!!」
作品名:ハイクマン 作家名:スナ惡