見栄プリン
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昼休み、飲み物を買いに食堂前の自販機へ寄るとチアキとばったりとあった。チアキが軽く会釈をよこすのを見て、私も会釈を返す。そのまま、入れ違いになろうとしたところで、ふと、思い直しチアキを手招きした。
首をかしげながら寄ってきたチアキをつれて、人気のない部室棟へ行き、文芸部室の前で適当に立ち止まった。
「チアキ、姉さんと付き合ってるんでしょ」
昼休みとはいえ時間が少ない。率直に本題を切り出すと、チアキはばつの悪そうな表情を浮かべた。私は、頭一つ高いチアキの顔をにらみ付ける。
「前から怪しいとは思っていたけれど、隠してたみたいだから何も言わなかった」
チアキは口を開いて、言葉をかみ殺すように閉じた。その言いたいことがあるけれど言えないようなそぶりに代わって、私の口が饒舌になる。
「けれど、私には何か一言言って欲しかった。幼なじみだし、姉妹だし、隠し事をされるのは気持ちが悪いし。どうせ、姉さんが何か言ったんだと思うけれど、それでも、私にはチアキの口から何か言って欲しかった」
ごめん、とチアキの口から漏れたのを聞いて苦い思いが心に零れる。思わず、にらみ付けていた視線を外してうつむいた。私が欲しいのはそんな言葉ではない。もっと別の何か求める言葉があった。それがどのような物か具体的には思いつけないままに、けれどそれが与えられないことを察した。
「あいつ、恥ずかしがっててさ」
うつむいていると、チアキの言葉が頭上から振ってきた。
「いつばらそうかって、いつも話してたんだけど、タイミング見つけ損なっててな」
それでも、と続ける。私は顔を上げた。
「あいつ、真剣に悩んでたからさ。なら、俺から告げるよりは、あいつなりのタイミングに合わせた方が良いのかなって」
そう思っていたのだと、チアキは告げた。
その照れ笑いのような苦笑いを見た瞬間に、私は何も言えなくなった。チアキの本音を聞き出すために考えていた言葉の全てが頭から消え去った。仕方がないと、そう思えてしまったのだ。
友達を待たせているから、と立ち去ったチアキの背を見送ってから暫く、その場に立ちすくんで考え込んだ。
なぜ私は、こんなにもくだらない事をしているのだろうと。