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ihatov88の徒然日記

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18 記念品 その1 6.7


 大学を卒業し就職したのはかれこれ16年前のこと。学生生活633で12年、大学入れて16年。人生で一番長かった「学生」の肩書きが今年度で塗り替えられます。年もとる訳だ。
 それにしても、この飽きっぽい私が部所は転々としたものの同じ会社で仕事を16年余りも続けているのがすごいなと自分で思ってます、自分的快挙です。働く人は誰もそうなので特に褒められることではないのですが……、

 当事の私は、社会人になった記念に何か自分にご褒美をと考えました。自分のために自分で発破をかけるために。そこで考え付いたのが腕時計だったのです。何か身に付けるものと決めていたので色々候補があって、結局最初に浮かんだものに落ち着いたのです。思えばあの時、服にしなくて良かった。だって年をとるにつれ体の成長が止まらなくて……。

「学生時代に貯めたお金は学生時代に使いきれ」
と自分の中で勝手にルール作って買ったのがタグ・ホイヤーの腕時計でした。お値段もそれなりに13万円也。半ば勤労学生のように学費と生活費、その上遊興費(これが一番使った)を捻出するためにアルバイトに勤しんだこともあり、社会に出る前に残った有り金のほとんどをつぎ込んで思いきって購入したのでした。
 今まで一万円でお釣りのこない時計をはめたことなどありませんでしたので、初めて高価な時計を付けたときの金属バンドの冷たさと言ったら……、とにかく感動したと同時に社会に出たら頑張ろうという励みになったのです。

   * * *

 あれから15年が経ち、私の社会人としての人生と共に相棒の腕時計は頑張ってくれました。寝ずに働いた時も、ヘタ打った時も、ヘンピな国へ出張させられた時も、飲んだくれて電車乗り過ごした時も、結婚式の日も、子どもが生まれた時も、暑い寒い雨の日雪の日も苦楽を共に、正確に時間を知らせてくれました。しかし最近時計の調子が良くないのです。

 昼上がりの日に、神戸の三宮に寄り道して時計屋さんに見てもらうと、
「メーカー問い合わせでないとわかりませんねえ」
と言われ相棒はその場で入院することになり、何か忘れ物をしたような気がして帰宅したのです。
 それから数日後、メーカーの方から電話がかかってきました。
「針の摩耗と中の腐食が進んでますね。バンドも交換しないと突然崩壊するおそれがあります、オーバーホールも必要です」
と説明され、メールで修理の見積書を送ってもらったのです。見るとお値段13万円、プラス税金。買った値段より高いのです。
 というのも現存のモデルではないので当然ながら値段が上乗せされるのは致し方ありませんが、元値を越えるのは予想外でした。

   * * *

 小遣いでいえばおよそ半年分。

   修理するべきか   修理を諦めるべきか

メーカーさんには一週間の考える時間をいただきました。今は安くてもしっかりした時計はあまたあります。この時計にこだわるのは思い入れだけです。特に身に付けるものにまで気を使う部門で仕事をしているわけではありませんので、二つの考えを秤にかけて検討しました。
 
 学生の頃に買った自分への激励、今の家族よりも付き合いの長い、15年間共に歩んだいわば戦友。動かすのも人情、諦めるのも人情。考え抜いた末に結局修理を諦めました、独身なら使い続けたかもしれませんが、今は一人で生活しているわけではないのです。
 私は代理店を通してメーカーに見積料金を払って時計を返してもらいました。時計はいつものように銀色の金属の服を着て味のある光を放っていますが、針は止まったままなのです。外見は凛としていても、中は私の汗で錆び朽ちていて、もうボロボロなのです。
「お疲れさん、ありがとうな」
 私は買った時に付いていた専用のケースに時計を収め、家に持ち帰りました。何だか家族の遺体を引き取ったかのようにしんみりした気持ちだったのが今でも時おり思い出されます。後日聞いたことですが、家でも職場でもちょっと元気がなかったと言われました――。

 相棒の亡骸は今もタンスの中にあります。捨てるに捨てられないのもありますが、いつの日かオーバーホールして復活させてやる日が来るかもしれない、そんな未練もあって寝かせてあります。家にある真空パッカーで封をしたので物理的に破壊か廃棄しない限り残ります。

 今はどうしているかと言いますと……、先日誕生日を迎えたのですが、家族からプレゼントとしていただいたのですよ、腕時計、G-SHOCKを。値段にしてみれば先代の10分の1ほどですが、今の家族でお金持ち寄って、長女が選んでくれたのです。
 それはそれで気持ちのはいったものです。気に入ってます。金銭的なものは価値をはかる大切なものさしでありますが、家族というものもそれに負けない価値を持ったものであることを再認識しました。

 長い眠りについている腕時計、しばらくはゆっくり休んでもらうことになりそうです。
作品名:ihatov88の徒然日記 作家名:八馬八朔