ihatov88の徒然日記
39 秋祭り 10.17
秋祭りのシーズンですね。この時期どこも祭で大にぎわいってもんです。そもそもが収穫の感謝祭がルーツになっているわけで、だいたいこの時期に祭をすると言うのにも納得がいきます。祭になると人って大変身する方って、いますよね?それだけ祭ってのは非日常であって、その日だけは特別になるようです。
ワタクシはたまたま育ったところで大きな祭がなかったので、大変身するってことはありませんが、そんな人が身近にいるんです――。
職場の部下なんですけど、兵庫県は西部・播州姫路の出身でして普段は仏のように寡黙でコツコツ仕事してくれるんですが、この時期になるとソワソワするんです。彼のPCの壁紙はもちろん法被に褌。祭になれば大変身なんです。
姫路といえば『灘のけんか祭』です。互いの地区が御輿担いでぶつかり合うというかなり激しい祭があります。そりゃあ熱い祭でありまして、この時だけは町の機能がストップするそうです。部下の話によると祭の前は泥棒も仕事をしません、だって捕まったら祭に出られないじゃないですか。そして当日も、もし見つかりでもしたら警察でなくて地元の人間に何されるか……だそうです。すごいですね、けんか祭、名称もすごいオトコ『漢』ってカンジだ。それだけ地元は大騒ぎなのです。
* * *
祭の数日前、部下からシフトを変更してほしいとの願いがあったのです。わけを聞くと、その日は祭で何でも今年は地区の総代を任されているとか。
「大変やねえ」
そう言いながらワタクシは決裁印を捺す。
「大変なんてもんとちゃいますよ。祭失敗したら町に住まれへんですよ。仕事より大事なんですから!」
温厚な彼が声を大きくして言う。まあ、ホンマに大変なんでしょう。
というわけで、先日シフトに入っていない職場の面々で彼の雄姿を見に行ったわけですが、これがですよ。さっきも書きましたが普段は仏のような男なんです。それが見事に大変身なんです。あんなに暴れまわる部下を見たのは初めてです。それも怖いくらい……。ワタクシは思ったんです。
「アイツ、怒らせたらアカンな」
一同納得。いやあ、祭ってホンマに非日常ですね。
* * *
次の週明け、部下の変わった一面を見たワタクシは出勤してきた彼にねぎらいの言葉でも掛けてあげようと思ったんです。だって、あの仏のような彼が変身してフンドシ一丁で御輿担いで地区を一つにまとめて頑張ったんですよ。どこまでが大成功か知りませんが、個人的には大成功と思ったわけです。
「お疲れさんやったね、今日はゆっくりしたらエエから」
と言うと、予想だにしない言葉が彼の口から発せられた。
「来年の祭の準備でてんやわんやですわ」
祭になったら人が変わるというのは、どうやら本当のようです……。祭しか頭ないんかい、オマエは――。
作品名:ihatov88の徒然日記 作家名:八馬八朔