海の星
天井からは硝子製の球が網に包まれてつるされ、磨き上げられた貝のランプシェードや、流木のオブジェもある。
「このガラスの球は何に使うものですか?」
話すきっかけが欲しかったぼくは、薄い緑や群青色のそのガラス球のことを聞いてみた。
「それは浮き球といって、網をかけるときに海の上に浮かべて使ったんです」
「へえ、こんな小さくても?」
ぼくは掌にのるほどの大きさのガラスの球を手にした。
「いえ、それは飾り用に小さく作ったものです。本物はもっと大きいんですよ」
女の人は今度は、ちょっと笑ったような明るいはずんだ声で答えた。
ぼくは少し奥に進んでみた。女の人はカーテンで仕切られたとなりの部屋にいるらしく、姿を見ることはできなかった。
その時ふと目をそらすと、突き当たりの壁にある棚に、貝殻が剥き出しのまま並べられているのに気づいた。
外国の珍しい貝もあったので、ぼくはしばらくの間、飽きもせずそれらを眺めた。そのうち、その中から白い星を見つけた。
「これは……ひとでですね」
ぼくが奥に向かって言うと、女の人の答えが返ってきた。
「それは海に落ちた星なんですよ」
突然、しきりになっているカーテンがはらりと揺れて、突風のような強い風がはいってきた。ぼくはぎゅっと目を閉じて風をやり過ごした。しばらくして再び目を開けると、目の前には夜の海が黒々と広がっていた。
「え?」
思わずふりかえったが、今までいた店もない。広い砂浜で呆然とたちつくしているぼくの目に、空から光るものが海に落ちていくようすが映った。
流れ星だ。
「ほら、ひとでが生まれるわ」
さっきの女の人の声がしたかと思うと、とたんにあたりは海の中にかわり、ぼくはゆらゆらと海中を漂っていた。
海の底に淡く光る星形のものがみえる。黒い影がそれを遮ったかと思うと、ぼくの目の前に人魚が現われた。長い髪、大きな黒い瞳の愛らしい少女だ。彼女はぼくの前に両手を差し出した。その掌の上には星があった。
「ほら、生まれたてのひとで」
透きとおった声が耳の奥に響いて、人魚はほほえみかけてきた。
「これはあなたの命よ。大事にしてね」
強い光に覆われてあたりがまっ白になると、ぼくの意識は遠くなっていった。
かすかに聞こえる波の音と明るい日射しに目を覚ますと、見慣れない部屋だった。いいにおいがする。