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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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海の星

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 いきあたりばったりで乗った電車がその駅に止まったとき、ふと降りてみたくなった。
 駅員のいない、古くて小さな駅をでると、目の前には白い砂浜が広がり、遠くに青い海がみえる。
 ぼくはまっすぐ海へ向かった。
 きっと夏にはにぎわって、海の家が軒を連ね、多くの海水浴客が歓声を上げて遊んだことだろう。季節はずれの今、広い海岸には人っ子一人いない。
 日が暮れるまでしゃがんでぼんやりと海をみているうちに、眠り込んでしまったようだ。気がつくと空には星が瞬いていた。
 急いで駅にもどると、もう最後の電車はいってしまった後だった。
「しかたない、今夜はここで寝るか」
 どっちに行ったら人家があるのかさえわからない。やみくもに歩いて迷うより、夜露をしのげる駅舎で寝られるだけでもありがたい。ぼくはそう思うことにした。
 でも、さすがにお腹の虫はだまっていてくれない。何も食べる物をもっていないので、せめてジュースでもと、自動販売機を探したけれどそこにはなく、駅舎の脇の水飲み場で水を飲んだ。
「ふう」
 ぼくは濡れたあごをうでで拭いながら、駅舎の中にもどりかけた。すると、駅前の暗がりに、ぼんやり明かりのともる家があるのに気づいた。
「あれ? あそこに家なんてあったっけ」
 ぽつんと一軒たっているのは、駅舎と同じくらいの小さな家だ。ガラス窓からもれる明かりの他に、軒下もぼんやり明るくて、そこに看板のようなものが浮かび上がっていた。
「何かの店か?」
 ぼくは駅舎のベンチからリュックをとってくると、迷わずその家に向かった。食堂ならたべものにありつけると思って。
 【海の店】
 看板にはそう書いてある。食堂ではなくてがっかりしたけど、頼めば泊めてもらえるかもしれない。わずかな期待を抱いて、ぼくは木のドアを押した。
「いらっしゃいませ」
 奥から透きとおるような若い女の人の声が聞こえた。けれど、陳列棚に遮られて、姿は見えない。声の主がこちらに出てくるふうもないので、ぼくは客のふりをして、ゆっくりと店内を見て回った。
 看板の通り、海の物が所狭しとならんでいる。ていねいに作られた木彫りの人形は船長や船員。窓際に整然と並んだ大小さまざまなビンには、砂と貝殻がはいっている。小さな海の景色のビンヅメだ。
作品名:海の星 作家名:せき あゆみ