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開けてはいけない

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どこかでけたたましくベルが鳴っていた。
急速かつ強制的に眠りから引きはがされつつあった俺は、朦朧とした頭で、今日は土曜日で会社は休みのはずなのに、何故目覚まし時計が鳴っているのだろうと思った。俺は枕元の目覚まし時計のベルを止めようとして、それが時計ではなく、電話のベルであることに気が付いた。時計の針は真夜中の3時を指していた。
俺は頭を一振りして、頭の中を覆う忌々しい薄靄を振り払うと、掛布団ごとベッドから転がり落ちた。そして、掛布団にくるまったまま、腕を伸ばして鳴り続ける固定電話の受話器を取った。
「もしもし」
まだ完全に眠りから覚めきっていない俺の間抜けな声にかぶせるように、受話器の向こうから加治の声が聞こえて来た。その声は、何かに怯えるようにうわずって、微かに震えていた。
「川村か。俺だ、加治だ。」
「どうした、こんな真夜中に。」
「音が、音が聞こえるんだ。」
「ああ、この前の電話で言ってたやつか。引きずる音が聞こえるんだろ。」
「なにかが、寝室のドアを引っ掻いているんだ。ドアの下の方から、がりがりがりがり音が聞こえるんだ。」
俺は耳を澄ました。確かに、加治の声の後ろから、なにかを引っ掻くような耳障りな音が聞こえて来る。
俺の神経が急速に覚醒して行くのが分かった。この耳障りな音は、まるで俺の神経が覚醒して行く音のようだった。
「落ち着け、加治。いいか、落ち着くんだ。」
「あ、ああ、大丈夫だ。落ち着いてる。」
加治のこんな取り乱した様子を見るのは、初めてだった。俺は深呼吸して加治に話しかけた。
「ドアを開けるな。ぜったいにドアを開けちゃいけない。」
作品名:開けてはいけない 作家名:sirius2014