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みやこたまち
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アバンチュール×フリーマーケット ~帰省からの変奏

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 境内をずるずると引きずられながら、私はそんなことを叫んでいた。それが、私がたどり着いた場所だった。私が撒き散らした蟹が、彫像のように座っている猫達の毛を、小さな鋏でつかんで、必死で登っていく。私は、どんどん小さくなるそんな景色を、呆然と眺めているしかなかった。

 女将はいつの間にか手にしている高島屋の紙袋を両手でかかえてニコニコしている。
「あなたは何も買わないの」
 私はちょっと面食らって聞き返す。
「どこで何を買うんです」
 私には、店が一つも見えない。ただ猫が点々と日向ぼっこをしている境内の中を散策しているだけだ。女将にそういうと今度は女将さんが「あら」という顔をした。
「そう。あなた、そうなの」
 何がそうなの、なんですか。私は袋に描かれたバラがなぜだかカサカサしているように見えて、それがなぜそんなに気になるのかわからないのが、不安で、その不安を女将に知られたくなくて、努めて明るくたずねてみた。しかし、女将が私を見る目が、先ほどまでとは違って、たとえば、「素性が知れたわ、それじゃもう話もすべきじゃないわね」といういわば「差別」的なものに変わっていて、女将は女将でその自分が差別的眼差しをしていると勘繰られないように努めているのが手に取るようにわかるのが、耐えられなかった。
「ここのフリーマーケットは、他と少し違うから」
 女将は小首をかしげてそういうと、傍らにあったベンチに腰を下ろした。私はなんとなくその前にしゃがみこんだ。女将は目をとじて足をぶらぶらさせたが、高島屋の袋をひょうたんみたいな形になるほどぎゅっと抱えこんでいた。

 今日は結局喪服を買った。暗い顔した結核病みの、若い男が商う店から。「鳥居の下で」「ええ。鳥居の下で」
 薔薇の文様の紙袋へ丸めて階段を下りる。小学生ぐらいで生きている素晴らしさを実感するためには、「死」におびえなければならないと思う。それは「無」、限りなく続く「無」に対する恐怖で、子供にとって最大限の未来、おじいさん、おばあさん、の向こう側にあるらしい虚無を垣間見せらた上でなければ無理。簡単に生きてるくせに、わざわざ難しいかおをしてそれでも笑うんだよ、みたいな押しつけがいやでした。私をこの世界に送り出した二人の人に、義理を感じなきゃならないのが嫌で嫌でたまらなかったから、家を出た。だけどこの世界にいることは別に嫌じゃないし、この世界も嫌いじゃない。盗れるものは盗る。売れる物は売る。我慢は死に向かう事だ。求める続ける事こそが、存在だ。私は半ば冷め、それでもこの世界の根本はこういう事だと判っていた。この世界に生きる証がこの身体で、この世界に生きるためにはお金が必要なのだから、そのお金を身体で得ることは、生きている証。良いことも、悪いことも、痛みも、軽蔑もね。私は独立した存在で、世界は優しい。誰かのために生きるのは馬鹿みたいだし、媚びるのもいや。生まれ落ちた事は受け入れた。だけどこの国のしくみを受け入れる義理はない。私は私の力で生きていける。私の宿へ、やってくる人がいる限り。それが他人の幸せを、奪うことで成り立っているとしたって。