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UFOとそら、そして私

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 その日は生憎の雨だった。その日はUFO見物ができないので、私は行きつけの居酒屋で一人酒をしていた。この居酒屋の主人とは懇意にしており、一人飲みの時は主人が話相手になってくれるのだ。
 酒屋は金曜の夜、ということもあり、込み合っていた。どうやら何処か会社が飲み会を催しているようで、テーブル席にはOL姿の口裂け女と、その同僚らしき会社員と、そして上司らしき中年男性が並んで座っていた。上司らしき親父は口裂け女に絶賛セクハラ中で、同僚たちも気の毒そうな視線を向けている。
 あまり盗み見るのも良くない。私は、ここ数日のことを主人に話すことにした。
「UFO、良いねぇ。夢があって。私も一度見てみたいよ」
「あ、てんちょー。信じてないんだぁ。ホントなんだよぅ、ホントに見たんだからぁ」
 この調子だ。まあ、普通の大人は信じないわな……。
「ねぇてんちょー。宇宙人になりたい男の子の気持ちって、分かる?」
「宇宙人? 宇宙飛行士じゃなくて?」
「そ、E.T.的な。グレイ的な。火星蛸的な」
 あ、口裂け女、キレた。
「あははっ! 子供は夢ってのはいつも面白いもんだねぇ。ところで、蛸と言えば今日の蛸は美味しそうだよ。刺身なんてどう?」
「蛸ねぇ。お刺身なんて無理無理。というか、スーパーで買った方が安いもん」
「そんなイケずだねぇ。まあ、よーこちゃんにお金がないのはこっちも分かってることだけどね」
 居酒屋を飛び出して行く口裂け女から、テレビへと目に映す。ニュースをやっていた。
『次のニュースです。八歳の遡羅君を虐待によって死亡させた容疑で父親の――容疑者を逮捕されました。』
「でもまあ、たまにはいいもの食べなきゃ。流石にちょっとやせ過ぎ――って、どうしたの、よーこちゃん?」
 テレビに映されていた写真は、あの少年のモノだった。
『たまに見ましたよ。夜中に町をウロウロしてたりするの。まさかとは思ってたんだけど、やっぱり』
「酷い話だよねぇ。見えないところをぼこぼこにしてたらしいよ。検死医があまりの酷さに吐いたって話っと、悪いねぇ。酒が不味くなる話だったね。チャンネル変えよっか」
「あ、うん。ごめん。なんか酔いが覚めちゃった。どうせだから勘定しちゃってよ」
「あいよ。また来てよ、お詫びに今度何か作るから」
「あはは、あんまり高いのは止してよね。こっちも気にしちゃうし」
 私は、勘定を済ますと、雨の中をゆっくりと歩いて行く。
 雨に濡れて頭と感情が冷えて行く。やがて足は公園へと向かっていた。当然のように、少年はいない。
 公園のベンチに座ると、夜空を見上げる。雲に隠れて、UFOは見えない。
 ああ、なんで気付いてあげられなかったんだろう。だが、後の祭りだ。どんなに後悔しても、起こってしまったことは変えられない。過去は取り戻せない。
 あの子は、どんな気持ちで「宇宙人になれたら」と言ったのだろうか。私の答えは、アレで良かったのだろうか。
 考えても考えても、答えは出ない。せめてUFOが見えたら、少しは気持ちが楽になったのだろうか。
 冷えて行く身体を引きずって、私は自分のアパートに戻る。
 身体を冷やしてしまったせいで、熱が出た。
 熱に浮かされて、私は変な夢を見る。
 私の身体が宙に浮き、家の近くの公園へと飛ぶ。公園には私ともう一人男の子がベンチに座って、同じ空、同じ方角に視線を向けている。私たちは同じ方角へと同じタイミングで首を動かす。とても間抜けな光景だった。
 やがて、男の子がベンチを降りる。そして公園の真ん中に立つと、そこにスポットライトが当たる。
 男の子は、こちらを見て微笑むのだ。
 そして、私もまた、その様子を見て微笑む。
 男の子の身体は宙を浮く。そしてスポットライトの光に従って、手を振りながら天へ天へと昇って行く。
 その光の先には、アダムスキー型未確認歩行物体。男の子は笑いながらそのUFOに吸い込まれると、やがてUFOはオリオン座の方角へと消えて行った。
 私は、その様子を嬉しそうに見つめていた。

 辛い風邪も、二~三日休めば何処かに飛んで行っていた。そしてその夜も、私は暖かい飲み物を片手に公園へと足を向ける。
 ベンチには誰もいない。私はベンチに座ると、冬晴れの空を見上げる。
 UFOは何時まで待っても飛んでこない。私は冷えて行く缶コーヒーとココアを懐に、いつまでもベンチで空を見上げていた。
 私はベンチの上でここ一か月のことを思い出す。
 少年は空を見上げた。
 私はその様子をただ見つめていたのだ。
 そして少年は、もう一度こちらを見て微笑むのだ。
 そして、私もまた、その様子を見て微笑むのだった。
 その年の冬の空は曇りがちだったが、それでも時折見せる空へと私はちらりちらりを目を向ける。その空の向こうに何かがあるんじゃないかと、期待するように夜空を見つめていた。
 あの少年のように――。