Wish プロローグ3
「ヒナちゃん…早く会いたいなぁ~」
でも、覚えていてくれてるかな…私のこと。
それに…あの約束…。
でも、小さい時の約束って大抵忘れてるっていうの多いよね…あぅぅ~。
でも、たとえ忘れていたとしてもそれはそれでいい。
私は、ヒナちゃんに会えればそれだけ十分なんだ。
今は、それだけで……うん。
また、昔みたいに頭…撫でてくれるかな。あの…やさしい手で…。
早く…会いたい…。
「そろそろ行こうかな」
そう思うと私は、重い旅行鞄を持って空港の外へ出た。
「あれ…?」
空港から外に出た私は、目の前の光景に驚いていた。
「昔と…違う…」
そう、街は私が記憶していたものとは全く違うものになっていたのだ。
まぁ、あの頃から何年もの月日が経っていたから街も発展していてもおかしくはない。
でも、あれだけ昔は、田舎だったものだからこのギャップに驚くのも当然だ。
あぁ…この虹ヶ坂もすっかり街らしくなってしまったのですね。
ホント、月日というものは何とやらってやつですね。
「なーんて、何お年寄りチックなこと考えてるんですかね」
しかし、どうしましょう。
これだけ街が変わってしまっていたら道に迷ってしまいそうです。
ここはやっぱり誰かに道を尋ねるべきなのでしょうか。
……でも、怖いな。見ず知らずの人と接するの…。
でも…それでは、いつまで経ってもたどり着けないですし…。
それに、何より早く会いたいヒナちゃんとも会うことが出来ないわけですし。
でも、やっぱり怖い…。
私は、気が付くと目に涙が溜まって、今にも零れ落ちそうだった。
こんなんじゃダメだ。これじゃ昔の私と全然変わらない。
もう昔のような泣き虫なんかじゃないんだ。
私は、ヒナちゃんに私がこんだけ成長したんだよ、もう泣き虫じゃないんだよって見せるんだ。
そして、ヒナちゃんに昔みたいに頭を撫でてもらうんだ。だから、私は、負けない。
私は、何かもやもやとした気持ちを振り払うかのように頬をバシっと叩き喝を入れた。
「怖いけど、勇気を出して頑張るよ。見ててね…ヒナちゃん」
そして、私は勇気を振り絞って立ち向かった。
…まずは近くの人に道を訊ねるために。
「す……すす…す…すみっ…すみっ…すみま…すみま…せん…」
「う…ん~終わった」
成り行きで入学式の準備を手伝っていた俺は、ようやくその任を終えることができた。
長かった…激しく長い一日だったぜ…。
初めは暇つぶし程度に考えていたが、今となっては暇潰しというか筋肉潰しだな。
体全体が悲鳴を上げてるぜ……いてて。
自分の任された仕事をしながら、姉さんと明日香の手伝いにも行ったし、凍弥の怪しげな悪事も抑制させながらだったから、いつもの倍疲れたぜ。
明日は、筋肉痛だろうな。
ああいう時ってホント何もかもがかったるくて動く気がしないんだよな。
ってそう思うのは、俺だけじゃないよな?
「春くん、お疲れ様。本当に今日は手伝いに来てくれて助かったよ。ありがと~ね」
「別にいいですって。最初は暇つぶし程度としか考えてなかったですから、逆に申し訳ないです」
「あははは。それでいいんだよ。暇つぶし結構、嫌々仕事をされるより全然いいことだよ~。それに、もし春くんたちが来てくれなかったら、これだけのこと私たちだけでは出来なかったよ。こんなにも早く終わらなかったと思うよ。だから、私は、本当に助かってるんだよ。ありがと、春くん」
姉さんは、にこっと微笑み、俺の肩をやさしくポンポンと叩いた。
俺は、そんな姉さんの笑顔に少しドキっとしてしまった。
「お礼といってはなんだけど、春くんを生徒会に歓迎しちゃうっていうのはどうかな?それで私と一緒に明日の学園…いや、二人の将来を築いていっちゃおうよ」
姉さんは、またいつもの調子で俺をからかう。
あはは……。それがなければいいですけどね。
何だかさっき、ドキっとしたのは勿体無かったぜ。
「ダメだよ~お姉ちゃん!お兄ちゃんは、ぜ~ったい渡さないからね!お兄ちゃんは、ボクのものなんだから♪」
「勝手にお前の所有物にするな。俺はモノじゃない」
プンプンと怒りながらやって来るは明日香こと姉さん2号。
「ふっふっふ。明日香よ、たとえ私の妹が相手であっても!…もし春くんを狙うというなら容赦はしないよ。私も本気で挑まないとならなくなるよ」
にやりと不敵に微笑む姉さん。
「もちろんだよ。姉さんもお兄ちゃんを狙うなら覚悟した方がいいよ~。ボクも本気でお姉ちゃんと戦うよ♪」
負けずと微笑み返す明日香。
って、何だか話がおかしな方向に進んでる気が……。
それに、姉さんと明日香…顔がマジなんですけど…。っていうか怖い。
「おいおい二人とも、何だかわからんがそのぐらいにしておけ」
「両手に華とは、中々やるな~ヒナタン」
「何がだッ!それに両手に華って…どっちも身内じゃねーか。そんなの別に嬉しくとも何ともないね」
「ほぉ~贅沢なヤツだ。それじゃ、身内でない華なら満足するのか?」
「べ…別にそういう意味で言ったんじゃねーよ」
「まぁ、幸いなことにお前の周りはとても環境がいいわけだしな。まさに、選り取り見取りじゃないか!よかったな」
「まだ言うか!」
まぁ、言われてみれば確かに……環境…いい…かな。
「ねぇ、お姉ちゃん聞いた?」
「うん、聞いちゃったよ」
何やら不穏なオーラを察知したので横目でその方向に目をやると、姉さんたちが不敵に笑みを浮かべていた。
…なんだよ、一体。
それにあの目を見ると何かこういや~な予感がするんだが。
すると、明日香が見るからに怪しいにんまりとした笑顔で、
「どうやらお兄ちゃんの周りには、お兄ちゃんを付け狙うボクたちの敵(恋敵)がいるようだね」
「そのようだね。これは、私とて見過ごすわけはいかないよ」
「ボクもそう思うよ」
「待て待て…。一体どうやったら、さっきまでの会話からそうなるんだ?」
「よし、明日香、この勝負一時休戦よ。私たちの手でその敵を排除しちゃおうっか♪」
「休戦協定ってやつだね。うん♪わかったよ。ボクたちでお兄ちゃんの未来を守ろうよ☆」
「明日香……よく言ってくれたね!さすが私の妹だよ!えらいえらい~!」
「ボクこそお姉ちゃんのこと見くびってたよ。だから、改めて言わせてもらうよ。お姉ちゃんは、『ザ・ベスト・オブ・ストロンガー・ドウター』と!」
「明日香!!」
「お姉ちゃん!!」
姉さんと明日香は、がっちりと手を取り合って姉と妹との絆を再確認してるようだった。
もう……勝手にしてくれ……。
「おやまぁ、これは羨ましい限りだな」
「はぁ…もう反論するだけの力もない…」
「まぁ、そう落ち込みなさんな。それだけお前がみんなに好かれてるっていうことじゃないか?まぁ、特にこの『姉妹』にだけどな」
「お前な…。フォローしてるのか、俺を更にブルーにしたいのか、どっちなんだ?」
「ははは」
笑って誤魔化すな。
しかし、さっきから何か忘れてるような…。
何だろう…なんか話にハリがないっていうかなんていうか。
「なぁ、俺たち何か忘れてる気がするんだが…」
「ん?どういうことだ?」
作品名:Wish プロローグ3 作家名:秋月かのん