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愛を抱いて 25

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それにしても森田の奴、頭来るよな。」
「奴は前から気に入らねぇよ。」
「そうだけど、今夜は特にな…。」
森田は世樹子の事が大変気に入ったらしく、何やかやと盛んに彼女に話かけている様だった。
ただ、世樹子は柴山と会話が弾んでいた。
柴山と話している最中に横から森田に喋りかけられ、少し困った様子を見せながらも、世樹子は笑顔で森田に応対していた。

 「え? 
あ…、御免なさい…。
何だったかしら…?」
世樹子は済まなそうに森田に訊いた。
「何だよ、また聴いてなかったの? 
そんな先生の方ばっか向いてないで、もっとこっちへ寄ってくれよ。」
「ええ…。
でも私って太いから、窮屈な思いをさせては悪いわ。」
「こっちは端っこなんだから、窮屈でなんかあるもんか。
それに全体に横に広がれば、みんなが楽にできる。」
「そうね…。
じゃあ、寄らせてもらうわね…。」
世樹子は心持ち身体を横へずらせた。
「全然変わってないじゃない。
もっとしっかり、こっちへ…。」
「森田…。」
西沢が云った。
「見苦しい真似は止めろ。
彼女が厭がってる事は歴然としてる。」
「いえ、私は別に…。」
世樹子は困った表情を浮かべた。
「俺達は合コンにおいて、紳士的態度をモットーとしてるんだ。」
西沢は云った。
私は「そうだったかな?」と思ったが、黙っていた。
「お前も俺達のコンパに参加した以上、それに従ってもらわなくちゃ困る。」
「彼女は別に厭がってなんかないって、云ってるぜ。」
「お前、それ本気で云ってるのか? 
頼むから、もっとスマートに行ってくれ。」
「スマートに行くってのは、どうやるんだ…?」
「何だ、知らないのか…? 
よし、俺が教えてやろう。」
西沢は自分のグラスを持って立ち上がると、森田の後ろへ歩いて行った。
「いいか、お前は今、先生と彼女を争ってるわけだが、1度に2人から口説かれたんでは、彼女だって困ってしまう。
まず、主導権を持つ方を決める事だ。
決め方は、昔から『一気』と決まってるんだ。
お前と先生で『一気』をして、勝った方が主導権を握る。
いいか、彼女をこれ以上困らせてはいけない。
そして俺も付き合う…。」
西沢は自分のグラスにウィスキーを足して一杯にし、森田と柴山のグラスには新しく濃い水割が作られた。
「お前、コンパが始まってから全然呑んでない様子だが、まさか酒も呑めないのに、女を口説こうってんじゃないだろうな…。」
手拍子の中、3人はグラスの酒を喉の奥へ流し込み始めた。


                        〈五〇、東京観光専門学校合コン〉




  【付録】東京観光専門学校合コン席順図



        森田 世樹子 柴山 女 西沢

       ┌──────────────┐
       │              
       │     TABLE    
       │              
       └──────────────┘

        女 野口 ヒロ子 鉄兵 理恵







51. 六本木エレファントマン事件


 森田は真っ赤な顔をして、頻りに世樹子へ喋りかけては、彼女の手や肩に触れようとした。
野口は左隣の女と仲睦まじく呑んでいた。
西沢はテーブルの縦の辺に自分の椅子を置いて、理恵に近づいて座り、隣の女を元自分が居た場所に招いて、3人で話をしていた。
「そんな事、あるはずがない…。」
私は云った。
「女の子は大学生であろうと、専門学校であろうと、高卒であろうと、可愛い娘が偉いのさ。
第一、専門学校の方が、名前を視ただけで目的が解って、大学みたいに何を目指して入ったのか考え込んでしまうより、よっぽどいいよ。」
「私達は大学を全部落ちて、それで仕方なく専門学校に入ったのよ。」
ヒロ子は云った。
「ここにいる娘は、みんなそうよ。
多分、うちの学校に通ってる人間のほとんどがそうだと思うわ。
まあ、当たり前の事だけど…。」
「当たり前って、それじゃあ何かい…? 
専門学校ってのは、大学に落ちた者が普通行くのかい?」
「全部の学校がそうではないわよ、勿論…。
でも、うちの学校なんかは、そういう人が多いわ。」
「何か、不思議な感じがするな…。」
私は中野ファミリーの女性達と、私の通う大学や女子大の女達を比較しながら、そう思った。

「俺は、専門学校の女の子の方が、好きだ。」
「まあ、本当? 
嬉しいけど…、あなたは、そうよね。」
突然、世樹子の小さな悲鳴が聴こえた。
彼女は椅子から身体を半分、立ち上がらせていた。
それより少し前、柴山が西沢達の方へ移動して、世樹子に 「そんな奴いいから、放っといてこっちに来なよ。」 と、云った。
世樹子はためらわず柴山の方へ行こうとした、その時、森田が世樹子の右腕を掴んだ。
「世樹子ちゃん、行っちゃあ駄目だよぉ。」
世樹子は立ったまま腕を掴まれ、困惑していた。
「森田、いい加減にしろ…。
お前はもう、完全に酔ってる。」
柴山が云った。
「俺はまだ酔っちゃあいない。」
「幾らお前が望んでも、彼女は駄目なんだ。
諦めろ…。」
「俺は彼女と話がしたいだけだ。」
「なら、離れていても構わんだろう。」
「…だって、野口等はあの調子だし、彼女が行ってしまったら、俺が1人で淋しいじゃないか。」
「馬鹿野郎! 
手を放せ!」
西沢が怒鳴った。
「お前、一気で負けた癖して、何て奴だ。
そこで1人でおとなしくしてろ。」
立ち上がって西沢は云った。
森田は手を放そうとしなかった。
「いいか、森田。
彼女はな、世樹子ちゃんは、既に交際中の身なんだ。
だから…。」
柴山が説く様に云った。
「そんな、でたらめ、信用するものか。」
森田は世樹子の腕を、ぐいぐいと強い力で引っ張り始めた。
世樹子は眼に半分涙を浮かべていた。
「鉄兵君、早く助けてあげなさいよ。」
ヒロ子が囁いた。
「あの野郎…。」
西沢は唸る様に云うと、森田の方へ行こうとした。
彼の椅子が音を立てて、引っ繰り返った。
「鉄兵、こいつに何か云ってやってくれ。」
柴山が云った。
森田の方へ歩き始めた西沢の怒りにすわった目つきを視て、私は立ち上がり、そして云った。
「森田、悪いけど、彼女は俺の女なんだ。
その汚い手を放しやがれ…。」
「やったぁ…!」
ヒロ子が手を叩いた。
森田は世樹子から手を放し、充血した眼を大きく開いて、私の顔を見つめていた。

 外へ出ると、人通りと違法駐車の列が一段と混み合っていた。
「じゃあ、世樹子と鉄兵君は、ここで開放してあげるわ。」
ヒロ子が云った。
「へ? 
どうして? 
ディスコへ行くんじゃないのかい?」
私は云った。
「そうよ。
私達は2次会で、踊りに行くの。
あなた達二人は、どうぞ好きな処へ行って頂戴。」
「あら、私も一緒にディスコへ行くわ。」
「世樹子、無理しないの…。」
作品名:愛を抱いて 25 作家名:ゆうとの