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愛を抱いて 25

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「お前がどうしても、みんなと一緒にいたいと云うんなら仕方ないが、ただな…。」
西沢が云った。
「なる程…。
俺がいては、邪魔だってわけか。」
「そう、私達はまだこれから男女のスリルを楽しむんだから、あなた達、既成のカップルにいてもらっては、少し都合が良くないのよ。」
「OK。
解った。
それじゃあ、俺達はここで消えるとしよう…。」
私と世樹子は皆と別れた。

 「今夜は大変だったね。 気を悪くしたろう? 
謝るよ…。」
「あら、全然そんな事ないわよ。
とっても、楽しかったわ。」
「1つ云っておきたいんだけど、あいつ、森田は、俺の友達でも何でもないんだ。
同じ酒を呑んだのは、今夜が初めてさ。
どっちかと云うと、日頃から気に入らない奴だ。
ただ、柴山と野口が、ぜひ参加させてくれって頼まれて引き受けて来たものだから…。」
「そうだったの…。
鉄兵君の友達にしては、何か感じが違ってると思ったけど…。
でも、色んな人がいるのね。」
「あの…、理恵ちゃんてさ、恋人いるの?」
「それが、募集中なのよ…。
鉄兵君、気に入った? 
彼女、可愛いでしょ。」
「ああ…、『マジック』で逢った時から、そう思ってた。
西沢も気に入ってたみたいだし…。
今、恋人がいないって事は、前の彼とは別れたのかな…?」
「高校の頃、付き合ってた人がいて、卒業前に壊れちゃったらしいの…。
専門学校に来てからは、ずっと淋しがってるわ。
あんなに可愛い娘なのに…。
私と理恵はね、いつも二人で慰め合ってたの。
でも、私だけ淋しくなくなっちゃったから…。
鉄兵君、隣に座ってたけど、ちゃんと面白い話を沢山してあげてくれた?」
「え…? 
ああ…。
何とか、精一杯の努力はした…。」

 前夜の酷い雨が嘘の様に、その日は1日中、晴天だった。
「ねえ、やっぱり、嵐は来るのかしら…?」
中野に戻って来た二人は、サン・プラの前に立っていた。
「ああ、多分ね…。」
ガラス張りのロビーの中は真っ暗で、ただ緑の非常灯だけが宙に浮かんでいた。
振り返ると、世樹子はじっと車道の方を見つめていた。
私はそっと彼女に近寄り、背後から抱き締めた。
「私…、嵐なんて平気よ…。」
世樹子は自分の肩の上から降りて来た、私の両腕を抱え込みながら云った。
「大丈夫さ。
君を1秒だって、哀しませはしない…。」
彼女は身を反転させ、二人は抱き合いながら、唇を重ねた。

 その夜は合コンという公然たる理由があったので、二人は三栄荘へ行く事ができた。
「何だ、柳沢、帰ってらぁ…。」
私は自分の部屋に電気がついているのを視て、云った。
門の中へ入り、階段の前の踊り場の下を視てから、今度はぎょっとして声が出なかった。
そこには夥しい数の男女の靴が、脱ぎ散らかされていた。
「これは…。」
そして私は初めて、自分の部屋が異様にざわついている事に気づいた。
耳を澄ましてよく聴くと、西沢とヒロ子の声がはっきり確認できた。
二人は顔を見合わせながら、階段を上った。
「あら、お帰りなさい。」
ヒロ子が云った。
「鉄兵! 
プライベート・タイムを満喫して来たか?」
笑っていた途中で、西沢が云った。
「ああ、お蔭様でな…。
ところで、この騒ぎはいったい、何なんだ…?」
「見りゃ解るだろ。 3次会さ…。」

 「済まんな、鉄兵。
悪いとは思ったんだが、この野郎がいけないんだ。」
西沢の指し示した処に、森田が寝ていた。
「森田は、潰れたのか…。」
「ああ、全く、どうしようもない奴だ…。」

── ディスコで西沢は、ヒロ子と理恵の2人の相手を務めた。
野口と柴山も残り2人の女とそれぞれ盛り上がり、自然、森田は1人あぶれてしまった。
そして、既に1次会でフラフラだった森田は、さらに浴びる程の酒を呑み、西沢によって計画的に潰された。
ディスコを出てからも、森田は至る処で次々に吐きまくるので、西沢達は彼に大きな紙袋を頭からスッポリ被せた。
前後不覚の状態にあった森田は、被せられた紙袋を取ろうともせず、そのままの恰好で六本木の街をフラついた。
向うからやって来た若い集団が、森田を視て、 「おぉ…! エレファントマンがいる!」 と叫び、通り過ぎて行った。
喫茶店へ入って皆で話をしている間に、森田は眠り込んでしまった。
再び盛り上がって、もう一度、今度は朝まで踊ろうという事になり、喫茶店を出るため全員腰を上げたが、森田は動かなかった。
彼等は踊りに行くのを諦め、男3人で森田を店から抱え出した後、タクシーに4人ずつ分かれて乗り込み、皆で三栄荘へやって来たのだった。 ──

 森田は部屋の一番隅に、頭から首の下にかけて沢山のナイロン袋を敷き込まれ、寝かされていた。
「俺、奴がタクシーの中で戻すんじゃねぇかと思って、ずっとビクビクだったぜ。」
西沢が云った。
「でも、あれだよな…。
専門学校の女の子って、何て云うか、優しいよな…。
合コンで泥酔者が出たのに、女の子が帰ってしまわずいてくれた事って、初めてだ。」
「あら…、だって1人が潰れたからって、コンパを解散する理由にはならないでしょう。」
ヒロ子が云った。
「その通りさ。
やっぱ、専門学校の娘は、ちゃんと解ってくれている。」
「俺達、これからもう女子大生は止めて、路線を固定しようぜ。」
「賛成。
合コンするなら、絶対、女子専門生とだよな…。」
我々は夜明けまで、飽きる事なく、酒を呑み言葉を交わした。

 焦点の合っていない視界の中で、皆が笑いながら手を振り、部屋を出て行った。
それからまた、しばらく眠った。
チリ紙交換のマイクの声を聴きながら、今度は完全に眼を醒ました。
窓の磨り硝子を通って、柔らかな日差しの末端が、カーペットの上に零れていた。
紙の音がして、振り向くと、世樹子が座って雑誌を読んでいた。
「あれ…? 
いたのか…。」
「ええ…、いたのよ…。」
私は煙草に火を点け、彼女が煎れてくれた珈琲を啜った。
「鉄兵君、今日の御用事は?」
「…まず、午前中は洗濯。」
「午後は…?」
「そうだな…。
水族館へ行く。」
「…。」
「サン・シャインに水族館があるんだってさ。
知ってた?」
「ある事は知ってたわよ…。」
「おっと、そうそう…、それからコタツを買いに行く。」
「コタツ…?」
「おかしかないだろう、もう夜は充分寒い。
君の本日の予定は?」
「個人の予定は別にないわ…。」
「じゃあ、付き合い給え。」


                       〈五一、六本木エレファントマン事件〉


作品名:愛を抱いて 25 作家名:ゆうとの