物語
先生はチラリと後ろの壁の時計を見ました。
「さあ、そろそろ時間ですね。今日の授業を終わりたいとおもいます」
「せんせーい!これじゃあ、今日の授業で答えがさっきから全然、出てませーん!」けんくんがいいました。
「そうですね。答えが出てませんね。皆さん、今日のこの授業は先生が答えを出す授業ではありません。皆さんと一緒に引いたり、割ったり、かけたりしてきましたね。χとは一体なんだったでしょうか?それから、先生が今日、書いた式。これは先生がこうならいいなと勝手に楽しく作ったものです。ですから、こんな式が果たして成り立つのかどうか。皆さんはこれから、ご自分の目で考えて、確かめて、ご自分で答え合わせをしていって欲しいと先生は思います。こんな式はデタラメかもしれませんし、そうでないかもしれません。成り立つのならχは一体どんなものでしょうか。それから、先生のχと、みいちゃんのχ、りんさんのχ、かいくんのχ、そらくんのχ、みんなそれぞれもしかしたら、違うのかもしれません。皆さんはそれぞれ、別の式を作り出すということができるのかもしれません。χの答えは、それぞれ、皆さんの中にあるのです。大きな数なのか、小さな数なのか、無限大数なのか、それとも全く0なのか。それから、もしかしたら、それは、そもそも、こんな式を作りあげて、足したり引いたりもできないものかもしれませんよ。皆さん、χとは一体どんなものだと思っているのか、一度、よく考えてみてください。今日は、それを宿題にします。はい。それでは、今日の一時間目の授業を終わります」
「きりーつ!れーい!ちゃくせーき!」
ルナちゃんは、ランドセルに教科書を詰めて、よいしょっと背負いました。
「みいちゃん、一緒にかーえろ♪」
「うん♪」
トボトボと歩く帰り道。
「今日の一時間目、すごかったねえ」ルナちゃんが言いました。
「ねえ、かいくんないちゃったしねえ」みいちゃんが言いました。
「みいちゃん、発表したねえ♪」
「うん、エヘヘ♪」みいちゃんは嬉し恥ずかしそうに笑いました。
「じゃあ、また明日♪」
「うん、また明日♪」
ルナちゃんとみいちゃんは、手の平を合わせて、
「じゃあじゃあ、またね」と手を合わせたまま手を振りました。
「ばいばいっ!」と指を組み合わせてギュッとギュッと握りしめ合いました。
それが、いつものバイバイの楽しいお決まりなのです。
ルナちゃんは、おうちへ帰ると、おやつを食べてから、二階の自分のお部屋へ行き、本を読みました。それからようやく今日の宿題に取り掛かりました。
日も暮れて、お母さんの声が下から聞こえます。
「ルナ~晩御飯よ~!」
「はあ~い!」
ルナちゃんは、えんぴつをポイと放り、バタバタと階段を駆け下りて行きました。
ルナちゃんの宿題ノートにはこう書かれていました。
「私は、算数が苦手です。今日の授業はとても難しかったです。引いたり、わったり、足したり、むげんとか、ぜんぜんよくわかりませんでした。
χ=
かいくんがないちゃった。それをみたときのきもち。
みいちゃんとばいばいじゃあねのあくしゅ。
お母さんのばんごはん」
∞おしまい∞
作品名:物語 作家名:BhakticKarna