物語
私は高校生になった。
のんちゃんは近くの商業高校へ通い始め、私は家からかなり遠い高校へ通い始めたし、それからあまり会うことがなくなった。
高校の休み時間。
賑やかな話し声や笑い声の中、私はぼんやりと窓の外ばかり見ていた。
ゆっくり流れていく雲を眺めていた。
雲が流れ、その隙間から隠れていた太陽が少し顔を出し、灰色の曇り空に光の筋を真っ直ぐに幾本も絵描きだした。
天使のはしご、天使の階段とも呼ばれるその光。
まるで天から天使が差し出したはしごを描いた絵本の一ページのような神々しい光景を眺めていた。
「はしご…」
のんちゃんと話した、はしごの話をまだ覚えていた。
私は当時、ハンバーグが夕飯に出てきたくらいでは、はしごをもらったと思えなくなっていた。
はしごがやってこない、やってこないと、ただひたすら待っていた。
その時、私の元には、誰かが暖かなはしごを沢山差し出してくれていたに違いない。
けれど、それをはしごとして大切に出来なかったあの頃。
今、私の周りは、たくさんの天使で溢れていることに気付く。
ありがとう。
頑張ってね。
お疲れ様。
おはよう。
また明日。
そんな言葉をくれる人たち。
私にはしごを渡してくれる、たくさんの天使のような人たち。
私は受け取ったはしごを一瞬で空高く駆け上り、喜びに包まれる。
そんな天使たちにありがとうと伝えたい。
はしごは、なんでもないようなところにも隠されている。
小道に咲く小さな可愛らしい野花や、耳をすませるさざ波や、見上げた夕日。
私さえその美しさ、ありがたみに気付づくことが出来れば、みんなはしごを渡してくれる。
それから、はしごは貰うばかりじゃなくって、自分で作ることも出来る。
自分で作ったはしごに登ることだって出来る。
作って登って、作って登って。
気づくと長い長いはしごを登れている。そんな風になったらいいなって、今日もせっせとはしごづくり。
はしごを誰かにプレゼントすることだってできる。
私が渡せるはしごは、相手にとってはちっちゃいものかもしれないけれど、大きな大きなはしごになるように気持ちを込めて作って渡したい。
どうもありがとう。って。
大好きだよ。って。
先週、のんちゃんと久しぶりに話した。
一年ぶりだというのに、いきなり童謡の歌詞を聞く相変わらずの私に、のんちゃんはアハハと笑った。
作品名:物語 作家名:BhakticKarna