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物語

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旅人と遊園地



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 旅人はマントをはおり西の故郷へ向けて出発しました。
 旅の途中、楽しげな遊園地を見つけました。
 入り口の辺りで中の様子をうかがっていると、受け付け係りの男が「どうぞ」とチケットを三枚渡してきたので、せっかくなので中へ入ってみることにしました。
 中では、大勢の人々が楽しそうに遊んでいます。
 赤や緑の色鮮やかな旗が上には張り巡らされていて、バイオリンやアコーディオンで軽快な音楽を奏でている楽団や、たくさんの赤や白の玉を器用にお手玉しているピエロ、その前には拍手喝采をあげている数人の見物人が並んでいます。
 それはそれはとても楽しげな、夢でもみているかのようなところでした。
 少し進むと、ひときわたくさんの人たちが並んでいる行列を見つけます。
 一番後ろに並んでいる男に声をかけました。
 「これはなんの行列ですか?」
 「これはね、この遊園地一番の目玉!スリル満点大型遊具に並ぶ列だよ!なんていったかなあ、まあ名前なんかどうでもいいけどさ、空へ飛び立つ瞬間はこの上なく素晴らしい気分なんだそうだよ!」男が興奮ぎみにこたえました。
 さらに大きな声で続けます。
 「ところで君チケットはちゃんと十枚持ってる?僕は入り口で四枚もらったんだけど、十枚集めるまでには、沢山のゲームをこなして本当に苦労したよ。横はいりはだめだよ。ちゃんと並んで。僕なんかもう五時間も並んでいるんだから。ああ、早く順番こないかな」
 五時間もこの長い列に並んでいたのかと少し驚きながら、旅人は列の先頭のその先を眺めました。
 遠くに白い高くそびえる細長い塔のようなものが見えます。
 列には、ぺちゃくちゃ楽しくおしゃべりをする人、黙ってただ静かにその時が来るのを待つ人、イライラし、しまいには隣同士けんかを始める人、色々な人々が並んでいました。
 遊園地が閉まるまでにこの男は乗ることができるのだろうか…ぼんやりと考えながら、旅人はその場を後にしました。

 少し歩いて行くと、美しい湖が広がっている眺めのよいところへでました。
 ゆっくりとボートを漕ぐ男女、岸に作られた棒を中心にしてクルクルと水面を回る飛行機の形をした遊具に乗って、はしゃぐ子供たち。
 どの子も弾けるような笑顔で、水遊びを楽しんでいます。
 乗り継ぎ場の近くに、看板がありました。

 「子供ボート一回1チケット」

 子供の遊びは安いのだな。これはいい。
 微笑ましく思いながら歩いていくと、美味しそうにアイスクリームを食べながらおしゃべりしている少女たちがこちらに向かってきます。賑やかな高い声が通り過ぎました。
 辺りを見渡すと、ベンチに座り、時折、遊ぶ子供に手を振りながら微笑みかける女性。
 ただぼんやりと雰囲気を楽しんでいるといった様子で、花を愛でながらのんびりと歩く老夫婦も見えました。
 ある一人の老人が目に留まりました。
 老人は少し薄汚れた格好をしておりましたが、下を向き、手には箒を持って、なにやらぶつぶつと呟きながら、地面をせっせと掃いています。
 旅人はその老人に声をかけました。
 「ここはとてもいいところですね」
 「ああ、そうじゃろう」と、老人は答え、小さな声で続けました。
 「もったいない、もったいない…みてごらん。せっかく配ったチケットも、使うことなく捨ててしまって、帰ってしまう
者もいるんじゃよ。もうここへはこられないじゃろう…本当にもったいない…もったいないことじゃ…」
 よく見ると、老人がさっきから掃いているのは、踏まれて泥だらけになり、くちゃくちゃになった、薄汚れたチケットの束でした。
 旅人はまた歩き出しました。
作品名:物語 作家名:BhakticKarna