物語
スポーツのように風のように
筋骨隆々、鍛え上げられた逞しい体の男が、目の前にいる細身の男に言った。
「人生とはスポーツのようなものさ。毎日の鍛錬が自己を鍛えあげる、みてくれ、この俺の筋肉を。 絶え間ない努力と根性の末、栄光を胸に輝くのさ。人生はそうでなくっちゃ!」
強靭な体の男は自信をみなぎらせながら笑顔で言った。それを聞いた穏やかな物腰の細身の男が言った。
「そうかい。僕にとっては、人生とは空のようなものさ。 僕は空を舞う風になって、のんびり、ゆるうりと空を流れてゆくのさ」
それから 数年後。
人生に疲れ果て、絶望の淵に立たされたあの筋骨隆々の男がいた。
今、まさに自らの命を絶とうという時!
それを見た かつて人生とは何か語り合った細身の男が言った。
「君、人生とはスポーツのようなものなんだろう!
試合で負けたからといって、なにも死ぬこたないじゃないか!」
筋骨隆々男は言う。
「 そうさ、俺は試合に負けたんだ!ことごとくね! だから、人生という名のスポーツを辞めてやるんだ!」
それを聞いた細身の男が言った。
「君、僕に言ったじゃないか。毎日の努力と鍛錬で君は鍛えられたのだろう。君の言うところの栄光ってやつは、人に自慢する勝利ただそれだけのことだったのかい!毎日、頑張ってた君こそを僕は眩しく見ていたよ。ところで、次の試合はいつなんだい?応援に行くから教えてよ。それに、スポーツの種類はひとつだけじゃないだろう。なあ、今度 一緒にテニスでもしようじゃないか」
筋骨隆々男は命を絶つのをやめた。
それから数年後。
人生を振り返り、何ひとつ必死に作り上げたことのなかった自分を責め嘆き、涙に暮れるあの細身の男がいた。
それを見た かつて人生とは何かを語り合った筋骨隆々の男が言った。
「君、人生とは空のようなものなんだろう!
風は泣いたりしないものだろう!」
細身男は言う。
「そうさ、僕は風のように生きてきたのさ。なにも残さずにひゅうと消えてしまうのさ…。」それを聞いた筋骨隆男が言った。
「何言ってるんだい、風が通り抜けるときには砂は動き地形を変え、走り出す者の背中を押し、確かに通った証を残したろう!常に風のように何事にも捕らわれることなく努めた君の誇らしい証が!さあ一緒に空を眺めながら茶でも飲もうじゃないか。」細身の男は泣き止んだ。
暮れなずむ夕空を眺めながら、穏やかな時の流れる中、二人は一杯の茶をゆっくりと味わったのであった。
おしまい
作品名:物語 作家名:BhakticKarna