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海野ごはん
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novelistID. 29750
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永遠の遠距離恋愛

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遠洋漁業の港町は観光地化されていて、寂れているのだがどこか活気を伴っていた。いくつかの観光地を廻り、ホテルのチェックインまで時間があるので静かな入り江の船溜まりの漁港を散歩した。
夕暮れの光が小さなさざ波だけの海面に揺れる。青、紫、赤と簡単な色しか言えないが複雑な色が絡みあった夕暮れの静かな港は絵葉書のようだった。観光地でないただの入り江。魚を獲った漁師が船の上で帰り支度をしている作業の音と防波堤に小さく打ちつける波音。
私は心静かに彼に沿って歩いた。彼もなにも言わない。二人無言で静かな防波堤から入り江を眺める。
やがて山影に落ちた太陽は入り江の色彩を黒い無彩色に埋めてゆき、私達の足元も暗くした。
「そろそろ行こうか、ホテルへ」
そしてその晩、私は入り江で揺れる小船のように彼の裸の下で揺れた。二晩目の夜だった。

翌朝、鉄道の電車が走る音で目を覚ました。夜は気がつかなかったがホテルの海側は海岸線に沿って二本のレールがどこまでも延びていた。
もしかして、彼とのこの遠距離恋愛が終わったら、今度はあの鉄道でここに来てみようかしらとへんな考えが浮かんだ。あそこを通る時、ここへ彼と来た事を思い出すんだろうか、それとも忘れてるんだろうか。いや、この地に来るくらいだから、きっと彼を思い出してるんだろう。
別れた後の事を考えたら、ふと彼が愛しくなってまだ寝ているベッドに潜り込んだ。温かいぬくもりとすべすべの彼の肌。この旅が終わっても忘れないようにもう一度抱きしめておこう。私は寝ている彼に手を回した。そして目を閉じ、また彼の夢の中に入っていった。

作品名:永遠の遠距離恋愛 作家名:海野ごはん