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海野ごはん
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永遠の遠距離恋愛

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翌日、空は快晴だった。英語だったらこれをサニーデイというんだろう。そんな言い方が似合いそうな朝だった。
二人が持ってきた別々のバッグを後部座席に載せると、二日目の旅の始まりだった。
彼は私のためにBGMを編集して来てくれてた。海岸線を走るということで海にちなんだ曲が次から次に流れてきた。こういう気を効かせてくれるのも私が彼を好きな理由だ。会った時から彼は私を楽しませてくれる。他の女性にもしてるかもしれないが、しないよりましだ。
海風の中をドライブしながら私は彼に質問してみた。
「ねえ、久しぶりに会うのって新鮮でいいわね」
「新鮮?それっておかしい言い方だけどワクワクするってこと?」
「そう、たまにだから燃えるの。会うたびに新しい恋みたいだから」
「言えてるな。僕もそうかもしれない。楽しい」
そう言うと彼はアクセルを緩め、太平洋からの波が砕ける音がする路肩に車を止めた。狭い二車線の道に窮屈に思いついたように車を止めたもんだから、すぐ横を追い越す車がびゅんびゅん走ってゆく。
「ここでキスしようか」彼はそう言って私の助手席の方に身を乗り出してきた。
「ここで?今すぐ?」
「うん・・・」
彼は返事を待たず私の唇に自分の唇を重ねた。柔らかい感触の次に感情を抱えた尖った舌先が私の舌に絡みついてきた。ねっとりとしたやらしい大人のキスに私は昨日と同じように背中からお尻を伝い甘い電気が足の指先まで流れるのがわかった。思わずどきりとして彼を押し離した。
「だめだめ、まだ今日は長いんだから・・・」
恥ずかしさの言い訳の様な気がした。
笑って「冗談だよ」という彼の顔にも照れが見えた。

そして、彼はサイドブレーキを緩めると、後続車をミラーで確認して発車させた。運転席の彼がいる右側に大きな青い海が見える。横に広がるうねりの波が太陽に照らされキラキラしている。
私は・・
そうそう、これがたまに会うからいいのよね・・と一人納得してほくそ笑んでいた。

恋愛は最初のうちはドラマチックが多々ある。そして時間の経過と共に高揚感は減り、起伏も乏しくなり、やがて色褪せて来る。
遠距離恋愛のいい所はたまに会うからいいのだ。私が望んでいた恋愛にぴったりなのだ。いつまでも胸ときめかせていられる状態でいたい。

彼の取りとめない話も、昔聞いた同じ話も久しぶりだから楽しい。私は彼の運転する曲がりくねった海岸線に揺られ、いつしか心地よい眠りに落ちていた。

目を覚ましたのは岬の灯台が見える駐車場だった。
「起きた?いいとこへ着いたよ」
「ここはどこ?」
「有名な岬」
「どこ?」
「台風がやって来る時に、現在、潮の岬南南西200kmとかニュースで聞くだろ。いつも基準点になる潮の岬だ。ここから南は全部太平洋だ。あそこの灯台に登ってみようか」
彼が指差した方向には立派な灯台が見えた。
遠くから見た時は大きいと思ったが、そばに寄ると案外小さかった。
明治の頃からの歴史ある灯台だった。

狭い螺旋階段を私が先に上る。彼はちょいちょい私のお尻を触る。
「やめてよ、もう~」怒ってないけど怒った振りをする。
「いい眺めだから、ついつい触ってしまった」彼もいたずらが好きだ。
私達は灯台の上部にあるデッキで、紺碧の海から吹いてくる風に吹かれた。旅先の思い出に誰でも残るだろうという景色が目の前に360度広がっていた。他に観光客は数人だけだった。静かな観光スポットだった。

「君と知り合わなかったら、ここには来なかったかもな」彼は言った。
「そうかもね。私も」
「広い海って健康的でいいよね」
「私は不健康そうな暗い照明のベッドの中も好きだわ」
「言うねぇ~・・・感心した。俺も好きだ」
そう言うと笑う彼は私を抱きかかえるようにして、鉄柵のデッキにもたれかかってきた。
「高いな~。下は断崖絶壁だ。落ちたら死ぬな」
正直、身震いするような高さだった。この鉄柵が何かの拍子に外れでもしたら、私達はまっさかさまだ。だけど彼の腕の中は安心感があった。このまま落ちても彼と一緒ならいいかと思う自分もいた。
半径3mほどの灯台を囲んだデッキで海風にしばし吹かれた。
まったりとした時間だった。誰か好きな人と触れ合いながら時を過ごすのはこんなに穏やかなものなんだ・・私は忘れていたものを思い出した。


作品名:永遠の遠距離恋愛 作家名:海野ごはん