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化け猫は斯く語りき

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 丸丸とした自身の身体に嫌気を覚えつつも、毎度の食事をすべて平らげてしまうのである。化け猫であっても所詮は猫なのである。食事の自主規制などはおおよそ不可能に近い。ただの一度だけ半分残しに成功した事があったのであるが、翌日には更に美味な食事が出てくる始末であった。

 ここまで分かっていても吾輩はあの美味過ぎる食事の魔力に太刀打ち出来ないままなのである。丸丸と太った重い身体を引き摺るように台所へと向かう。
「果たして今日の食事は如何なものであろうか」
 吾輩が浮かれているのが分かったのか、我が主人の母君は吾輩に笑顔を見せていた。
「はいはい、ごはんですよ〜」
「待っていたのである! 今日はっ! 今日は何であるかっ!?」
「今日? ふの味噌汁」
「にゃ?」
 吾輩を見る目には謝意が溢れかえっていたのである。
「ごめんねぇ、お医者様に食べさせ過ぎだと云われてしまったの。あなたのためなんだから、今日からはこれで我慢してね」
「これは何であるかっ!? 吾輩は昨日の食事を所望したいのである!」
 無論、直接そのように問いただす事など出来る筈もない事は吾輩が誰よりも知っていることであった。
 目の前に置かれたそれは、いつもの食事とは明らかに趣向が異なっているものであった。
「にゃにゃにゃにゃっ!?」
 吾輩の涙の抗議も虚しく、格段に質が下がった食事が取り替えられる事は無かったのである。

 吾輩は一刻も早くこの家を出ようと心に決めたのである。


  ― 『恐怖の味噌汁』 了 ―
作品名:化け猫は斯く語りき 作家名:村崎右近