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化け猫は斯く語りき

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6.『蛙の怨霊』


 眼前にそびえ立つ紫峰(しほう)に向かう車中の後部座席にて、吾輩は一つ大欠伸を漏らす。時分は丑三つ時に程近くその代わりに人家の灯りは遥か遠い。専ら猫属の欠伸は脳に大量の酸素を送り込み素早く目を覚ます事を目的とした行為なのであるが、吾輩は人間との暮らしが長きに及んでおるが故に眠気に襲われた際にも大欠伸をしてしまうのである。
「痛いよぉ、目が痛いよぉ、早く何とかしてよぉ」
 吾輩の隣には右目を覆う包帯の上からさらに両手でその目を押さえる小童が痛みを訴えつつ震えておった。小童の右目はある日突然に紫色に染まり始め、人間の医術ではその原因を特定出来なんだそうである。まもなく完全に光を失うであろうと云う宣告と共に匙(さじ)を投げられたとの事であった。
「もう少しだからね、頑張って」
 助手席に座る小童の母が身を捩り我が子を振り返る。吾輩の上を素通りする視線からは偽りの情のみが読み取れる。
 車を運転しているのは吾輩が厄介になっている男である。霊障を専門として扱う探偵紛いの事を生業としている。専ら町の便利屋として働いているのであるがその身に秘めた力は本物であった。吾輩はその男を皮肉を込めて“探偵屋”と呼んでいる。
 この母子は何処かで我らの噂を耳にして訪れたらしいのであるが、子供が痛みと苦しみを訴える一刻を争う事態である筈なのにも拘らず丹念に整えられていた母の身なりが母子の情の軽薄さを如実に表していた。白粉が塗り込められた顔などはひび割れの一つや二つを発見出来そうな程である。
 吾輩は小童の症状が重いことを考慮し、母子の話を聞く事もせず早急に車に乗るよう勧めたのである。小童の右目がこのような惨状に陥っている原因は呪術によるものである故、医者が匙を投げたのも納得出来るものであった。
 小童の身を脅かしているのが“目串”と呼ばれる呪いである事は一目瞭然であったので、吾輩は小童に対して一つだけ質問するように探偵屋に伝えたのである。
 
「何か生き物の目を刺したりしてないかい?」
「蛙……」

 げろげろげろげろ げーげーげーげー
 げろげろげろげろ げーげーげーげー

作品名:化け猫は斯く語りき 作家名:村崎右近