化け猫は斯く語りき
5.『悪魔の人形』
吾輩はとある陰陽師夫妻と暮らしておった。夫の方が神主をしておったから陰陽師とではなく退魔師と呼ぶべきやも知れぬのであるが、実に些細で細やかな事柄である故そのまま陰陽師と呼ぶ事にする。
陰陽師には娘がおって、夫はその町の一帯を守る事に妻は幼き娘を守る事にそれぞれ専念しておった。そこにひょっこりと迷い込んだ吾輩は陰陽師夫妻に敵とみなされてしまったのである。陰陽師夫妻の力は本物ではあったが如何せんその強度が足りておらず、吾輩の相手としてはいささか力不足であった。蹴散らす事は容易であったが吾輩は単純に闘う事には何の興味も抱いておらず、無下に力を振るう事においては嫌悪の念すら抱いておった故すぐさま停戦を申し入れた。
紆余曲折を経て吾輩が陰陽師夫妻の娘を守る事となったのであるが、それはまた別の話となるので今は触れぬ事にする。
師走が終わりに近づく頃になると小学生という区分に分類されている陰陽師の娘は毎年酷く塞ぎ込むのである。吾輩が何故かと問うても夫妻は苦笑いを浮かべるだけで何も答えてくれなんだので、娘の夢枕に立ちその原因を聞き出したのである。人間の風習に疎い吾輩には詳しく分からぬのであるが、どうやら“くりすます”なる祝事を行えぬ事に対する不満であると判明した。夫妻にその事を告げると『分かっていたのですが……』と語尾を濁し決まり悪そうに頭を掻くばかりであった。
陰陽師が曰くに『西洋の宗教的な祝い事なので……云々』との事であったが、吾輩には皆目理解出来なんだのである。猫属には猫属にしか分からぬ事情があるのと同様に人間にも人間にしか分からぬ事情が存在するのであろう。であるならば、猫属である吾輩が推し測る事もままならぬのは致し方ないと云う思いに至ったのであるが、すでに娘には情が移っておった故このまま諦めてしまうのはあまりにも口惜しきと考えどうしたものかと妙案を探す事にしたのである。